ツムラCSR~社会と企業の共通価値創造を目指して~

特集 漢方・生薬事業を通じた「社会との共通価値創造」

理念に基づく経営と漢方・生薬事業ならではの「社会との共通価値」

後藤:ツムラグループは、「理念に基づく経営」を実践されています。

加藤:ツムラグループの「経営理念」は基本的な価値観・信念をあらわし、「企業使命」は社会から必要とされ存在し続ける目的をあらわしています。当社の創業は1893年で、創業時の社名は「津村順天堂」でありましたが、「順天」とは天にしたがうことを意味しています。天道にのっとって自然の摂理にきちんと合った形で正しく事業を行うという考え方です。漢方事業を通じて国民の健康に寄与し、持続的に価値を提供し続けることが私たちの使命と認識し、「経営理念」「企業使命」を当社グループの基本理念として経営の拠り所としています。

後藤:「基本基調」には「伝統と革新」を掲げておられます。

加藤:企業活動においては、歴史や年数の積み重ねに甘んじることなく、革新し続けなければなりません。『伝統とは革新の連続である』と考えています。我々現役の世代は、伝統を正しく理解し、革新に思いを馳せて仕事に向かうことが、より良い企業文化に育てる、伝統につながるという思いから、「伝統と革新」を基本基調としています。

後藤:私は、イノベーションとは常識と非常識がぶつかったところで生まれると考えています。常識を伝統、非常識を革新と捉えることもできると思います。ツムラでは「理念に基づく経営」の実践とともに、近年では「社会との共通価値創造」という考え方も提示されています。

加藤:当社の事業は製薬産業に位置付けられますが、自然の恵みである生薬を原料とし、その薬用作物を育てるという農業事業者としての性格も併せ持っています。このため、一般的な製薬企業と異なり、漢方製剤を製造するまでに、生薬栽培農家や自然環境という長いバリューチェーンが存在し、さらに、ここに関わるステークホルダーの皆さまとの重要な共通価値が存在しています。他に手本のない漢方・生薬事業だからこそ、取り組むべき社会的課題、社会との共通資本、社会とツムラの共通価値を明らかにすることが必要であると考えています。(「ツムラの価値創造サイクル」参照)

漢方医学と西洋医学の融合による健康・医療課題の解決を目指して

後藤:特定された社会的課題のうち、漢方・生薬事業との関わりが深い「健康・疾病」「医療」について、西洋医学と漢方医学の違いや、取り組む意義をお聞かせください。

加藤:西洋医学は、基本的に、臓器別にそれぞれの診療科において病気の原因に直接対応することで効果を上げ、平均寿命の延伸に貢献しています。しかし、西洋薬の大半は単一成分から作られており、1つの病状に1つの効果を発揮することが多いと言われています。そのため、複数の疾患を抱える患者さまには診療科・病状ごとに投薬され、投薬数が多くなることがあり、特に高齢の患者さまには多剤投与による副作用発現という問題も起こっているようです。
 一方、漢方医学は、患者さまのからだ・症状全体を診ながら薬を処方する診療が基本となります。漢方製剤のほとんどは複数の生薬からなる、多成分系の複合製剤です。1剤に複数の有効成分を有しているので、複数の症状にも1剤で対応できる場合があります。我が国の医療制度においては、西洋医学と漢方医学の良いところを治療に取り入れることにより、それぞれの特徴や利点を活かしたより良い医療が実現できると思っています。
 当社は、患者さまが必要に応じて"漢方"を取り入れた治療を受けられる医療現場の実現に貢献することを目指しています。そのために、漢方医学セミナーを開催し、医学生が卒業後に研修医、臨床医となられてからも漢方医学を学ぶ機会を提供するなど、漢方医学教育に対する継続的な支援を行っています。

地域カンファレンスin高知

地域カンファレンスin高知

後藤:新中期経営計画の重点3領域への漢方医学の貢献についてお伺いします。

加藤:高齢者関連領域では、身体機能と認知機能が低下して虚弱となった状態であるフレイル※1に対して、西洋薬と違ったメカニズムを持つ漢方製剤の可能性が期待されています。適切な運動や食事とともに、食欲亢進、神経症や不安症などの緩和、転倒リスクの軽減など、重症化対策としての治療に有効な漢方製剤のエビデンス(科学的根拠)の構築をさらに加速し、健康寿命の延伸に貢献したいと考えています。
 がん領域では、がん治療に伴う副作用、術後の合併症・後遺症に対する漢方治療の必要性、いわゆる支持療法に関する漢方製剤の臨床効果が報告されています。例えば、食欲不振、末梢神経障害、口内炎などに対する治療効果などですが、さらに研究を推進し、エビデンスに基づく診療ガイドラインへの掲載を目指しています。広く治療に役立てられることにより、療養生活の質を向上させ、さらには患者さまが無理なく仕事と治療を両立できるよう貢献したいと考えています。
 女性関連領域では、更年期障害、月経困難および泌尿器科領域などにおけるエビデンスの構築をすすめています。もともと漢方製剤は、女性特有の疾患に有効なものが多く、女性の健康維持に寄与する薬剤であると考えています。これは、政府の掲げる「女性活躍推進」への貢献という重要な意味があります。
 また、漢方製剤の生産数量・販売数量の増加にともない、「原料生薬の安定確保」や「原料生薬から最終製品までの品質確保」が、ますます重要になっており、最近発表された「国民の健康と医療を担う漢方の将来ビジョン研究会」※2の提言にも盛り込まれています。

後藤:新中期経営計画の戦略課題に「中国における新規ビジネスへの挑戦」を掲げ、中国に新たな合弁会社を設立されました。中国の医療課題に対しては、どのような貢献を目指していますか。

加藤:中国には伝統医学である中医学があり、漢方薬の起源である中薬があります。中国では近年、国を挙げて生薬の品質向上や品質の標準化をすすめています。当社は日本の伝統医学の方剤である漢方製剤を中国に輸出するのではなく、中国合弁会社を通じて、中国の伝統医学である中医学や中薬の近代化を支援することで、中国の人々の医療へのアクセスを高め、健康に貢献したいと考えています。

後藤:新中期経営計画の戦略課題に「中国における新規ビジネスへの挑戦」を掲げ、中国に新たな合弁会社を設立されました。中国の医療課題に対しては、どのような貢献を目指していますか。

加藤:中国には伝統医学である中医学があり、漢方薬の起源である中薬があります。中国では近年、国を挙げて生薬の品質向上や品質の標準化をすすめています。当社は日本の伝統医学の方剤である漢方製剤を中国に輸出するのではなく、中国合弁会社を通じて、中国の伝統医学である中医学や中薬の近代化を支援することで、中国の人々の医療へのアクセスを高め、健康に貢献したいと考えています。

生産者、地域社会との共通価値創造へ

後藤:一般的な製薬企業との違いとして、原料生薬の調達が必要なため、農業との関わりがあります。国内で問題になっている1次産業の衰退や遊休農地の拡大、また国際的には、気候変動にともなう生産農地の移動や収穫量の変動も懸念されます。こういった状況において、ツムラと生産地との関わりや、取り組みについてお聞かせください。

加藤:生薬栽培には、豊かな土壌ときれいな水などの自然環境が必要で、生薬栽培地域の森林を保全し、水源を守り、豊かな農産物を育てるという循環を維持しなければなりません。また、農業は収入が安定しないことや、作業が重労働であるため、若い人が農業に魅力を感じない、農業を職業にしないという問題があります。農業を守り育てていくために、収入を安定させる仕組みも必要です。
 当社では、米や野菜を育てる農家の方々に兼業として生薬の栽培・収穫をしていただき、農業事業組合などを通じて加工、当社への販売までを手がける「6次産業」※3の先駆けとなる経営モデルを実践していただいています。また、自社管理圃場による生薬生産を拡大することにより、原料生薬の価格安定と安定調達につなげています。高知の農事組合法人「ヒューマンライフ土佐」とは20年以上のお付き合いですが、柴胡や山椒などの生薬を栽培していただき、全体の農業収入の安定化、耕作放棄地の拡大防止などのお役に立てていると思います。

後藤:まさに地方創生への貢献をされています。中国やラオスでも契約栽培や自社管理圃場による調達を行っておられます。


柴胡の収穫


加藤:ラオスでは、生薬栽培を当地の農業政策にあわせて行うことに加え、栽培地周辺における不発弾の処理や、農業技術の移転による生産性向上、循環型農業技術による焼畑依存脱却などの活動を行っています。2011年6月、当社のラオスにおける事業活動は日本政府が促進する「成長加速化のための官民パートナーシップ」の官民連携案件としてはじめて認められるに至っています。その他、中学校の設立支援やインフラ整備など、現地の社会的課題の解決にも貢献しています。
 中国では、他の作物が育たない地域で、生薬栽培をしていただいているケースも多いです。そういった地域では、長期の栽培契約により経済収入が安定し、徐々に生活レベルが改善され、地域社会の発展を支える結果につながってきています。

今後のツムラCSRの取り組み

後藤:社会とツムラの共通価値の創造は、健康、働きがい、貧困の撲滅など、SDGs(Sustainable Development Goals)※4の17の目標に通ずるところが多々あります。最後に今後のCSRへの取り組みについてお聞かせください。

加藤:当社は、本業である「漢方・生薬事業」を通じて持続可能な社会の実現に貢献していきたいと思っています。今年の決算説明会では、冒頭にツムラグループのESGへの取り組みを説明しました。当社は、それぞれの分野の課題に適切に対応していくことが健全な企業の発展や成長の原動力となり、最終的には持続可能な社会の形成にお役に立てると考えています。漢方・生薬事業のバリューチェーンは、「社会関係資本」なしには成立しません。CSRの取り組みについても、中長期的な計画の立案と推進が基本です。今後はCSR方針や重点的な活動領域の設定、社会貢献の成果を定量的に評価できるKPI※5の検討など、当社ならではのCSR活動や社会への提供価値について、より多くのステークホルダーの皆さまにご理解いただけるよう、引き続き主体的に取り組んでいきたいと思います。

後藤:創業150周年の節目も視野に入ってきます。ツムラグループの今後のさらなる活躍を期待しています。

※1フレイル:加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能など)が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆弱性が出現した状態。2014年5月に日本老年医学会が「フレイル」と呼ぶことを提唱。

※2国民の健康と医療を担う漢方の将来ビジョン研究会:日本東洋医学会と日本漢方生薬製剤協会が共催し、国内トップオーソリティの先生方による、3回の研究会とフォーラムを経て、2017年3月17日に提言書を発表した。

※36次産業:1次産業が、加工や流通販売にも業務展開する経営形態をあらわし、生薬栽培では、栽培(1次産業)×生薬への加工(2次産業)×生薬の販売(3次産業)のことをいう。

※4SDGs:2015年9月に国連で採択された、国連に加盟するすべての国が目指すべき持続可能な開発に向けた行動計画。2030年を目標年としている。

※5KPI:重要業績評価指標(Key Performance Indicatorの略)。目標達成に向かってそのプロセスが順調に進んでいるかどうかを点検するための指標。

生薬栽培農家の皆さま

柴胡の茎切り作業

後藤 敏彦(ごとう としひこ)氏

特定非営利活動法人(サステナビリティ日本フォーラム)代表理事、
環境監査研究会代表幹事、
認定NPO環境経営学会会長、
NPO日本サステナブル投資フォーラム理事・最高顧問、
(一社)グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン理事、
(一社)グリーンファイナンス推進機構理事、
NPOアースウォッチジャパン理事、
(一社)環境パートナーシップ会議理事、
地球システム・倫理学会常任理事、
サステナビリティ・コミュニケーションネットワーク代表幹事、など。
環境管理規格審議委員会EPE小委員会委員、
環境省//情報開示基盤整備事業WG座長、
日中韓環境大臣会合(TEMM)付設日中韓環境産業会議(TREB)団長、
環境レポート大賞審査委員会委員、
環境報告ガイドライン検討会委員、など。
著書に「環境監査入門」(共著)ほか、講演多数。