まとめ

便秘とは
便秘とはお通じが出ない状態をいいますが、はっきりとした定義がありません。医学的には「排便が2〜3日に1回程度あって、“なかなか便が出ない”“便が出なくて苦しい”といった自覚症状がある場合」とされています。
便秘の治療
漢方医学では、便秘は「気・血・水」のなかの「水」の不足、ストレスや緊張による「気」の異常、「血」の異常である「お血」などによって起こると考えられています。
病院での診察
漢方の診察では、独自の「四診」と呼ばれる方法がとられます。胃腸の具合や月経の状態、日常生活のことなど、便秘とはあまり関係ないように思われることを問診で尋ねたり、おなかや舌、脈を診たりすることがありますが、いずれも薬を決めるための手がかりになるので、重要です。
便秘

便秘は女性が多く訴える症状のひとつ。なかでも多いのは次の2タイプです。

1. 痙攣(けいれん)性便秘=ストレスなどが原因で腸が痙攣性の収縮運動をするため、腸の内容物が正常に運ばれなくなり便秘に。コロコロとしたウサギのフンのような便が特徴。
2. 弛緩(しかん)性便秘=運動不足や食物繊維をとらない生活をしているため、大腸全体の動きが悪くなる。太くて固い便の場合が多い。
どちらの便秘もまず、食事や運動などの生活習慣を改善することが基本です。

では、どれくらいの人が便秘で悩んでいるのでしょうか。厚生労働省「平成25年国民生活基礎調査」によると、成人の便秘症の有訴者率(自覚症状がある人の割合)は男性4.0%、女性5.9%で、成人の約14%に上り、実に日本人7〜8人に1人が便秘の症状を持つと言われています。年齢別、男女別で見ると、20代~40代の女性、あるいは70歳以上の男女に便秘が多いことがわかっています。この便秘人口は、和食中心の食生活から欧米化した食生活への変化やファストフードの台頭などによる食物繊維不足、トイレに行く習慣をおざなりにした生活などによって、今後増えると予想されています。

便秘のメカニズム

便秘とはお通じが出ない状態をいいますが、はっきりとした定義がありません。医学的には「排便が2~3日に1回程度あって、“なかなか便が出ない”“便が出なくて苦しい”といった自覚症状がある場合」とされています。

便秘にも原因によっていくつかのタイプに分かれています。このうち女性に多いのは、痙攣(けいれん)性便秘と弛緩(しかん)性便秘と言われています。そうは言っても明確にタイプが分かれているわけではなく、いくつものタイプが重複している、どのタイプにも当てはまらないという場合もあります。

便秘のタイプ

機能性便秘(腸の機能低下などで起こる) 痙攣(けいれん)性便秘 ストレスなどが原因で腸が痙攣性の収縮運動をするため、腸の内容物が正常に運ばれなくなり便秘に。
コロコロとしたウサギのフンのような便。
弛緩(しかん)性便秘 運動不足や食物繊維をとらない生活をしているため、大腸全体の動きが悪くなる。
太くて固い便の場合が多い。
器質的(症候性)便秘(病気が原因で起こる) 大腸がんやポリープなどによって便の通りが悪くなることで起こる。

次に便秘が起こるメカニズムについて説明します。
食べものが胃に入ると、その信号が脳に届き、食べものを胃から腸へと送るよう指令を出します。この指令により腸はミミズの動きのような蠕動(ぜんどう)運動をはじめ、食べカスを肛門の方に押し出し、排便を促します(胃・結腸反射)。
ところが、便意をガマンし続けていると、この反射が鈍くなり、便意が起こらなくなります。また、食事の量が少なかったり、食物繊維の量が不足していたりすると、便の量が少ないためにこうした刺激が起こりにくく、便意が起こらないこともあります。
このほかに、不摂生によって自律神経の働きが乱れると、「ノルアドレナリン」という物質が分泌され、蠕動運動を起こしにくくなるため、便秘になることもわかってきています。

便秘の薬物治療

便秘を治すには食生活や生活習慣の改善が何より大切になります。朝は毎日、トイレに行く習慣をつける、野菜や海草類、キノコ類など食物繊維が豊富な食事をする、もよおしたらガマンせずにトイレに行く、定期的な運動をする、といったことを実践していきます。
それでも便秘が解消しない場合は、便秘薬(下剤)を一時的に使います(頓服)。下剤の種類は以下の表にありますが、常習性がある、おなかが張る、刺激が強すぎてお腹が痛くなってしまうといった問題もあるので、慎重に使わなければなりません。

便秘薬の種類

刺激性下剤 大腸を刺激して蠕動運動を促進させ、便を出すのが大腸刺激性下剤。腹痛が起きやすく、常用すると次第に効かなくなる恐れも。一方、小腸に刺激を与えて便通を促すのが小腸刺激性下剤。昔から使われているひまし油などがこれにあたる。大腸刺激性下剤のような問題は起こりにくい。
機械性下剤 薬の成分による浸透圧によって、腸内の水分量を増やし、液状にして便を排出させる薬が塩類下剤。水分を吸収して便のカサを増やし、やわらかくすることで便を出すのが膨脹性下剤。後者ではおなかが張ることがある。
浣腸剤、坐剤 肛門側からグリセリンを入れて、直腸を刺激することで排便させるのが浣腸剤。坐剤は肛門から入れて、炭酸ガスを発生させることで、腸の動きを活発にさせる。

なお、市販されている薬のほとんどは、大腸を刺激することで排便を促す「大腸刺激性下剤」です。若い女性では、市販されている下剤の乱用によってかえってお通じが悪くなってしまうケースが見られ、問題になっています。

漢方薬による治療

漢方の見方では、便秘は「気・血・水(き・けつ・すい)」のなかの「水」の不足、ストレスや緊張による「気」の異常、「血」の異常である「お血」などによって起こると考えられています。便秘以外の症状がない場合は、西洋医学的な「下剤」のような利用の仕方、つまり症状があるときだけ一時的に使うことが多く、便秘以外の症状を伴うときは、体質改善を行いつつ、お通じの状態を整えるという使い方をしていきます。

便秘でもっともよく用いられる漢方薬は、大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)です。「漢方」という名前が付いた市販の便秘薬のほとんどに、この漢方薬に配合されている生薬が含まれています。体力がある人向けの薬です。体力があまりない人には桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)が用いられます。
このほか、ウサギのフンのようにコロコロした便は「水」の不足で起こると考えられることから、潤いを与える麻子仁丸(ましにんがん)・潤腸湯(じゅんちょうとう)がよい、というように便の特徴から、処方を決めることもあります。
大黄甘草湯、桂枝加芍薬大黄湯、麻子仁丸、潤腸湯には、大黄や麻子仁といった下剤作用が含まれる生薬が入っているので、飲んだら比較的すぐに作用が現れますが、反面、下痢になったり、胃腸が痛くなったりする場合があります。その場合は、下剤作用のある生薬を含まない桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)を使って、便秘を改善していくこともあります。この2つの処方は腸の動きを調整する働きがあることから、便秘と下痢を繰り返すような症状の人にも向いている漢方薬です。大黄甘草湯などのような直接的な作用はありませんが、しばらく飲み続けることで、腸の動きを回復させて、安定したお通じをつけることが可能です。

さらに、お血症状が強い人の便秘で肩こりや腹部の張りがある場合は大柴胡湯(だいさいことう)、月経不順など月経の不調を伴う場合は桃核承気湯(とうかくじょうきとう)などが使われますし、イライラや不眠など気の異常がある人の便秘には、柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)がよく用いられます。

便秘の治療で用いることが多い漢方薬

大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう) 体力にかかわらず使用できる。便秘、腹部膨満など
桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう) 体力中等度以下で、腹部膨満感、腹痛のある方の便秘、しぶり腹など
麻子仁丸(ましにんがん) 体力中等度以下で、ときに便が硬く塊状な方の便秘、腹部膨満など
潤腸湯(じゅんちょうとう) 体力中等度又は虚弱で、ときに皮膚乾燥などがある方の便秘
桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう) 体力中等度以下で、腹部膨満感のある方の便秘、腹痛、しぶり腹など
大柴胡湯(だいさいことう) 体力が充実して、脇腹からみぞおちあたりにかけて苦しく、便秘傾向のある方の常習便秘、高血圧や肥満に伴う肩こりなど
桃核承気湯(とうかくじょうきとう) 体力中等度以上で、のぼせて便秘しがちな方の便秘、痔疾など
柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう) 体力中等度以上で、いらいらや不眠など精神不安のある方の便秘、神経症など

漢方の診察では、独自の「四診」と呼ばれる方法がとられます。前述したとおり、胃腸の具合や月経の状態、日常生活のことなど、便秘とはあまり関係ないように思われることを問診で尋ねたり、おなかや舌、脈を診たりすることがありますが、いずれも薬を決めるための手がかりになりますので、重要です。

医療用漢方製剤はお近くの医療機関で処方してもらうこともできます。
ご自身の症状で気になることがありましたら、一度かかりつけ医にご相談ください。
(すべての医師がこの診療方法を行うとは限りません。一般的な診療だけで終える場合もあります。)

監修医師

東海大学医学部専門診療学系
漢方医学 教授
新井 信先生
新井 信 先生

医学博士、薬剤師
東京薬科大学 客員教授
東北大学薬学部、聖マリアンナ医科大学、
横浜市立大学医学部、昭和薬科大学、防衛医科大学校、
東海大学医療技術短期大学 非常勤講師
漢方専門医・指導医、総合内科専門医、医学教育専門家
東亜医学協会 理事
和漢医薬学会 常務理事
日本東洋医学会
日本医学教育学会

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