まとめ

貧血とは
貧血とは、血液中のヘモグロビン(血色素)が正常よりも少ない状態をいいます。
めまい、立ちくらみ、頭が重い、頭痛、耳鳴り、顔色が悪い、唇の色が悪い、肩や首すじがこる、動悸、息切れ、むくみ、疲れやすい、体がだるい、注意力低下といったさまざまな症状が起きてきます。
貧血の治療
漢方薬で血を補うことで「血虚」を改善し、症状を改善していきます。場合によっては血だけでなく、「気虚」を伴っていることもあるので、気を補う治療が必要なこともあります。
病院での診察
漢方の診察では、独自の「四診」と呼ばれる方法がとられます。貧血とはあまり関係ないように思われることを問診で尋ねたり、お腹や舌、脈を診たりすることがありますが、これも貧血の根本的な原因を探るために必要な診察です。また、体質改善を目的にする場合は長期服用が必要となりますので、根気よく飲み続けることが、最大の鍵となります。
貧血

貧血とは、血液中のヘモグロビン(血色素)が正常よりも少ない状態をいいます。ヘモグロビンは血流に乗って体のすみずみまで酸素を運んでいくため、ヘモグロビンが減少すると体内の各所で酸素不足が生じ、血色不良、動悸、息切れ、疲労、倦怠感、めまい、たちくらみなどの症状が現れるのです。とくに女性の場合、ヘモグロビンの材料となる鉄分が食事で摂りきれなかったり、月経によって血液を失う機会が多かったりするため、貧血になりやすいと言えます。ただし、がんなどの重大な病気によって起こることもあるので、注意が必要です。

貧血のメカニズム

貧血とは、血液中の赤血球(ヘマトクリット)の減少や、赤血球に含まれる血色素(ヘモグロビン)の量が少なくなった状態をいいます。 貧血には原因によっていくつかの種類がありますが、もっとも多いのがヘモグロビンの原料となる鉄が不足して起こる鉄欠乏性貧血です。そのほかにも再生不良性貧血、巨赤芽球性貧血(悪性貧血)、溶血性貧血などの貧血もありますが、稀なものですので、ここではもっとも多い鉄欠乏性貧血を中心にお話します。

ヘモグロビンは酸素を体の中に運び、いらなくなった二酸化炭素を持ち帰り、肺から外に出すなどの重要なはたらきをしています。そのため、ヘモグロビンが少ししか作られないと、全身に運ばれる酸素の量が減少し、体が酸素不足になって、めまい、立ちくらみ、頭が重い、頭痛、耳鳴り、顔色が悪い、唇の色が悪い、肩や首すじがこる、動悸、息切れ、むくみ、疲れやすい、体がだるい、注意力低下といったさまざまな症状が起きてきます。

鉄欠乏性貧血の原因にはいくつかありますが、代表的なものは出血、食生活による鉄分不足、成長・出産に伴う鉄分不足、激しいスポーツなどです。

鉄欠乏症貧血の原因

出血 過多月経や出血性胃炎、痔など、慢性の出血性疾患によって起こる。出血によってヘモグロビンの中の鉄分が大量に失われる。
食生活 偏食やダイエットなどで食物からの鉄分の摂取が極端に不足するような食事をしている。
鉄分の需要が多い 成長期の子どもや妊娠中の女性は鉄分の必要量が普通よりも多いため、鉄分が不足しやすい。
激しいスポーツ 運動量の多い激しいスポーツを継続して行うと、筋肉運動によって赤血球の破壊が進む。

貧血の薬物治療、非薬物治療

治療は、まず出血性疾患がある場合はその治療を優先し、食生活が乱れている場合は生活の改善をすすめていきますが、それでも改善が見られない場合、またこうした治療と並行して、鉄剤の経口摂取を行っていきます。通常、鉄1日100mg、すなわち鉄剤1~2錠を内服します。このペースで鉄分の補充を行うと、およそ1~2か月でヘモグロビンは正常化します。
このほか、薬の服用と並行して、以下のような生活習慣にも注意します。

鉄分の多い食品を積極的に摂る
成人男性は鉄分を1日約12~15mg、成人女性は15~20mgの摂取を心がける。
無理なダイエットや食事が不規則といった生活は改善する
バランスの良い食事を摂る
ヘモグロビンは鉄とたんぱく質でできているので、鉄だけでなく、肉や魚、豆腐、卵など良質のたんぱく質を適量とることも大切。また、ビタミンCは鉄の吸収を促進させるはたらきがあるので、野菜やくだものなども積極的に食べる。
適度な運動をする
日頃から運動しているとヘモグロビンが増える。ただし過度な運動、やり過ぎには注意しましょう。
鉄分の多い食品

大豆、大豆製品、レバー、牛モモ肉、まぐろ赤身、 いわし丸干し、ひじき、もずく、のり、あさり、牡蠣(かき)、ほうれんそう、小松菜、切干大根など

漢方薬による治療

漢方には「気・血・水(き・けつ・すい)」という概念があり、貧血はこの「血(けつ)」が不足している状態、「血」の栄養不足だと考えています(ちなみにこの血というのは、単に血液と言う意味だけではなく、血液がもたらすはたらきも含まれています)。これを漢方では「血虚(けっきょ)」という状態ととらえ、漢方薬で血を補うことで血虚を改善し、症状を改善していきます。場合によっては血だけでなく、気が不足している状態「気虚(ききょ)」を伴っていることもあるので、気を補う治療が必要なこともあります。このほか別の原因によって貧血が起こる場合は、そちらの原因をとっていくことで貧血症状を改善させることもあります。例えば、月経によって症状が現れる人は血が滞っている「お血」の状態ととらえて、お血を改善する漢方薬が処方されることもあります。

貧血の治療によく使われる漢方薬

十全大補湯(じゅうぜんたいほとう) 体力虚弱な方の貧血、疲労倦怠、食欲不振など
加味帰脾湯(かみきひとう) 体力中等度以下で、心身が疲れ、血色が悪い方の貧血、不眠症、精神不安など
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん) 体力虚弱で、冷え症で貧血の傾向があり疲労しやすい方の産前産後の貧血、足腰の冷え症など

また食べるとすぐにお腹を壊してしまう人、食欲がなくて食べられない人、たくさん食べていても貧血がある人などは、胃腸の消化吸収機能が弱くなって、食べた栄養が体に届いていない場合も考えられます。そこで、漢方薬で胃腸のはたらきを強くして、消化を高める四君子湯(しくんしとう)、六君子湯(りっくんしとう)を処方をする場合もあります。

漢方の診察では、独自の「四診」と呼ばれる方法がとられます。一見、貧血とはあまり関係ないように思われることを問診で尋ねたり、お腹や舌、脈を診たりすることがありますが、これも貧血の根本的な原因を探るために必要な診察です。また、貧血になりにくい体質への改善を目的にする場合は長期にわたる服用が必要となりますので、忘れずに根気よく飲み続けることが、最大の鍵となります。同時に食生活にも配慮して、貧血になりにくい生活を送ることも大切です。

医療用漢方製剤はお近くの医療機関で処方してもらうこともできます。
ご自身の症状で気になることがありましたら、一度かかりつけ医にご相談ください。
(すべての医師がこの診療方法を行うとは限りません。一般的な診療だけで終える場合もあります。)

監修医師

(取材当時)
北海道漢方医学センター附属北大前クリニック 院長
北大名誉教授
本間 行彦先生
本間 行彦 先生

1936年札幌市生まれ。1961年北海道大学医学部卒業。1966年北海道大学大学院卒業、同学第一内科助手、講師を経て1987年同学医学部・保険診療所・教授となる。1994年北海道大学保健管理センター所長併任。 2000年北海道大学名誉教授、北海道漢方医学センター・北大前クリニックを開設。呼吸器疾患、とくに間質性肺炎・肺線維症の研究を進める傍ら、昭和51年から漢方医学の研究を深め、その正しい理解と普及に精力的に取り組んでいる。著書に『本気で長生きしてみませんか』(北海道出版社)、『漢方 ここまで治る』(共著、北海道出版社)など。

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