東邦大学
医学部外科学第三講座
斉田 芳久 氏
大腸内視鏡の前処置として用いられるポリエチレングリコール液(以下,PG液)は,検査前日の食事制限がなく下剤の服用の必要がない優れた前処置法として普及している.しかし,本邦においては患者受容性の面から2 Lの服用が一般的であるが,欧米で用いられている4 Lと比べても前処置として不十分であることが臨床的に経験され,各種薬剤が併用されている.しかし,強い下剤を使用すれば前処置が良くなる反面,患者のQOLや受容性が低下するなど,バランスの良い併用薬の選択は困難であるのが現状である.
斉田氏らはこれまで長年にわたり,どのような薬剤を大腸内視鏡の前処置として併用すれば,患者の良好なQOLを保ちつつ,受容性が高く,しかも前処置向上性が高いのか,6種類の併用薬についてprospectiveな検討を行ってきており,今回はその研究結果が報告された.
6種類の薬剤で検討
対象は,1998年から2004年にわたる大腸内視鏡検査予定患者であり,センナ1.0 g,シサプリド15 g,ツムラ芍薬甘草湯(TJ-68) 7.5 g,ツムラ大建中湯(TJ-100) 7.5 g,TJ-100 15 g,TJ-100 7.5 g+モサプリド15 mgの6種類の薬剤または薬剤組み合わせの有無で,それぞれ1年間程度のsingle blindによるprospective randomized trialを施行した.
検討項目は,年齢,性別,検査当日の排便開始時期,排便回数,排便時間,腹痛,嘔気の有無と程度,併用薬の飲みやすさ,前処置の状態,盲腸までの挿入時間とした.腹痛,嘔気の有無と程度はスコア化し,アンケートによる自己申告で評価した.さらに,前処置の状態については施行医によるスコア化を行った(表1).
判定スコア
それぞれを併用群と対象群に分け,十分な説明とインフォームド・コンセントのもとに封筒法によるrandomizationを行った.
大建中湯で前処置を有意に促進
1.センナ1.0 g併用
センナの前日投与は,検査当日早期の排便を促すものの,センナ併用の有無では明らかな前処置向上効果は認められなかった.また,高齢者で腹痛の発現が増す傾向にあることから,日常診療での併用投与は望ましくないと考えられた.
2.シサプリド15 g併用
シサプリドの併用はやや前処置を向上させ,挿入を容易にする傾向はあるものの,排便状態は変わらず,腹痛と嘔気を増強する可能性が示唆され,本研究からは人に優しい併用薬ではないと思われた.
3.芍薬甘草湯(TJ-68) 7.5 g併用
TJ-68は腸管運動の促進剤や鎮痙剤としても使われていることから,前処置を向上させるのではないかと考え用いられた.TJ-68は前処置を抑制する傾向があり,嘔気を発現させる可能性が示唆され,本研究からは無効であり,人にも優しくないため併用薬として不適切と思われた.
4.大建中湯(TJ-100) 7.5 g併用
TJ-100 7.5 gを前日の昼から3回に分けて投与することにより,前処置を有意に促進することが認められた(表2,p<0.01).TJ-100を投与することにより,PG液内服前排便が増え,排便回数はやや減り,前処置が向上し,挿入を容易にする傾向が認められた.また,腹痛と嘔気の発現頻度は変わらず(表3),患者に優しい有効な併用薬であることがわかった.
腹痛,嘔気
排便状態
5.TJ-100 15 g併用
TJ-100を15 gに増量しても受容性は良好であったが,排便日数と嘔気はやや増えるものの,腹痛は7.5 g投与と変わらず有意差はみられなかった.前処置向上効果は認められず,増量の必要性は特に認められなかった.また,15 gではやや飲みにくいことがわかった.
6.TJ-100 7.5 g+モサプリド15 mg併用
TJ-100にモサプリドを併用することにより,内服しにくさが増加した.排便回数は,有意差はないものの増加がみられた.腹痛,嘔気スコアは変わらず,前処置向上効果はなく,追加は特に望ましくない結果であった.
大建中湯併用は患者のQOLと受容性が高い
以上の6種類の検討結果から,大腸内視鏡前処置におけるPG液とTJ-100 7.5 gの併用が,明らかに前処置を促進することがわかった(p<0.01).また,挿入時間の短縮も図れるほか,一般的な下剤とは異なり,前処置向上のために腹痛と嘔気を増強することもない.したがって,大腸内視鏡の前処置においては,TJ-100 7.5 g (2.5 g×3)の併用が患者のQOLと受容性の高い併用薬であると斉田氏は結論づけた.
編集・制作:株式会社ライフ・サイエンス