新冠町国民健康保険病院
井齋 偉矢 氏
北海道・新冠町(人口6,000人)で内科・外科を標榜する国民健康保険病院は,病床数69床の地域病院である.国保病院という性格上,井齋氏は地域の広報紙に連載記事を掲載することが可能で,執筆により漢方治療の啓発にも積極的に力を注いでいる.
本年4月から井齋氏は外科を担当する傍ら,漢方専門医の資格を取得したのを機に,外科に漢方外来を併設した.北海道の公立病院で漢方外来を併設したのは初めてのことで,開設時には大きな話題となった.井齋氏は現在,外科診療に費やすのと同じ時間を漢方診療に当てているという.
漢方外来の患者の状況
漢方外来の1日当たりの患者数を月別にみていくと,4月が4.3人,5月が4.6人,6月が6.5人,7月が8.2人と順調に伸びている(図1).町内の居住者は約半分で,町外の比較的遠方の地域から足を伸ばして訪れる患者も多い.男女比はおよそ1:3で女性の割合が高く,年齢層は病院全体でもともと高齢者が多かったのだが,漢方外来を訪れる患者さんは50〜60歳代でピークに達する.
患者性別と年齢分布(平成17年9月末現在)
診療内容と方剤の頻度
初診時の主訴は,診療科の関係から関節痛,神経痛,筋肉痛などの整形外科的症状がトップを占めるが,精神科的症状も意外に多かった(図2).外科系漢方外来での留意点としては,一見,整形外科的な症状を呈している患者さんの背景に精神的な問題が隠れており,表面に現れている症状の原因になっていることがあるので注意が必要である.
初診時の主訴(平成17年9月末現在)
初診時の方剤のベスト3は,(1)
,(2)
湯,(3)抑肝散の順となっている(図3).併用薬は,修治ブシ末が16.3%,コウジン末が11.0%,新薬が15.2%である.
初診で投与された方剤(平成17年9月末現在)
抑肝散著効症例の紹介
抑肝散が方剤頻度の3位と多用されている要因には,精神科的症状,特に抑圧された怒りなどの感情に良く効果を示す点があると思われる.
井齋氏は,腰,足の付け根,足,首,頭に痛み,足の冷え,足元のふらつき,口中の乾燥,体中のかゆみなど,様々な不定愁訴をもち,夜中によく目が覚めるという女性の症例を提示した.漢方的に診て特徴的な所見では,舌の乾燥,見かけ上の元気さに比べて脈が沈んでいること,軽い胸脇苦満がみられた.7年前に夫を亡くし,息子夫婦との3人暮らしであった.井齋氏は認知療法を兼ねて,嫁との関係がうまくいかないため心の中に怒りの感情が溜まり,様々な痛みの症状となって現れたのではないかと患者に説明し,その上で抑肝散を処方した.4週間後,症状は明らかに改善し,夜中に目が覚めることもなくなった.その後も症状の改善傾向は続いているという.
漢方治療の効果と今後への期待
漢方外来での治療効果を尋ねたアンケートによると,不明を除外した全体の有効率は70%を超えており,十分な手応えを井齋氏は感じているという(図4).
漢方治療の効果
漢方薬は長い歴史の中で淘汰されてきた薬剤ではあるが,その特徴である多成分系を駆使して包括的に炎症などの病態をコントロールできる未来指向型の薬剤であるとして,井齋氏は,今後は鍼灸も積極的に取り入れた総合的な東洋医学外来を目指したいとして講演を締めくくった.
編集・制作:株式会社ライフ・サイエンス