慶應義塾大学
医学部外科学教授
北島 政樹 氏
医学の進歩は目覚ましく,外科領域でも工学分野との連携を通じたロボット手術実用化の研究が進められている.一方,漢方は2000年もの伝統に裏打ちされた医療体系であり,最新のテクノロジーと漢方が併用されていると聞けば,首をかしげる向きも多かろうと想像される.
しかし,漢方はここへ来て新たな局面を迎えている.従来は有用性のみが確実であり,その作用メカニズムは解明されていなかったが,近年は西洋医学の方法論を適用した多数の基礎研究が行われ,着実に成果を上げつつある.また,不定愁訴などの西洋医学が不得手とする領域や病態において,漢方がしばしば効果を発揮することは周知の事実である.東洋医学と西洋医学の融合,そして相互補完を通じて,患者の立場に立った医療を実現することは,われわれに課せられた目標といえよう.
本シンポジウムで取り上げられた大建中湯は,臨床の現場で広く用いられている補剤の1つである.慶應義塾大学病院では,腹腔鏡下大腸切除術の術後管理に同剤が有用であることから,術後1日目以降の同剤投与がクリニカルパスに盛り込まれている.これは同剤が在院日数を有意に短縮するとのエビデンスに基づく対応であり,こうした研究成果が蓄積されていくことにより,他の施設においても同様の措置が採用されるものと期待できる.
このように将来的な漢方の普及を考えたとき,エビデンスの蓄積に加えてキーワードとなるのは,「国際化」と「教育」であろう.慶應義塾大学は古くから漢方との縁が深く,留学生の受け入れや海外施設との共同研究を通じて,国際交流をリードする立場にある.また,漢方医学講座や市民講座の開設により,学生や一般市民の啓発にも努めている.国境を超えた展開と次世代への継承を軸として,漢方の有用性がさらに広く認知されることを願ってやまない.本研究会の成果がその一助となれば,司会を務める筆者にとっても望外の喜びである.
編集・制作:株式会社ライフ・サイエンス