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Medical Tribune [ 2006年12月28日号特別企画]
The 4th International Workshop on DLB and  PDD - SYMPOSIUM 1 Clinical Features 
in DLB and PDD
●第4回 DLB/PDD国際ワークショップ シンポジウム1より
 平成18年11月2〜4日 横浜シンポジア
 
 去る11月2〜4日、横浜シンポジアにて第4回DLB/PDD国際ワークショップ(小阪憲司会長)が開催された。今回のテーマは「DLB/PDDのより精巧な診断基準をめざして」であり、国内外の専門家が集い、新たな診断基準の根拠となりうる最新の研究成果が報告された。2日目に開催されたシンポジウム1では、Ian Grant McKeith氏(Newcastle大学)および荒井啓行氏(東北大学)の座長のもと、「Clinical Features in DLB and PDD」のテーマで、臨床研究の最新情報が報告された。この中で荒井氏は、DLBの問題行動に対する抑肝散の臨床研究成果を示し、2006年にスタートした日本国内の抑肝散に関する大規模臨床試験の概要についても言及した。

抑肝散とびまん性レビー小体病(DLB)関連の問題行動
 
   荒井  啓行氏 東北大学大学院 先進漢方治療医学講座 教授
   
■治療者のジレンマ
 認知症の問題行動(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia :BPSD)は、患者本人だけでなく家族など介護者にとっても大きな問題となっている。荒井氏は、徘徊、幻覚、睡眠障害などのBPSDの程度を示すNeuro-psychiatric Inventory Score(NPIスコア)の重症度が介護者の負担感と相関することから、BPSDの治療の重要性を指摘した。

 従来、認知症の周辺症状の治療にはおもに抗精神病薬が用いられていたが、認知症患者に抗精神病薬を投与するとパ−キンソン症状が見られたり、転倒や誤嚥性肺炎など身体機能を低下させることが、臨床でしばしば問題になる。Wada氏らの調査では、アルツハイマー病(AD)患者に対する抗精神病薬の使用は、誤嚥性肺炎のリスクを3倍にすることがわかっている(表)。

ほかにも、抗精神病薬の使用でAD発症リスクが3倍になるとの報告もある。この傾向は国外でも指摘されており、ついに2005年、米国食品医薬品局(FDA)は17のプラセボコントロール試験の結果を解析した結果、高齢の認知症患者に対する抗精神病薬の使用は死亡リスクが1.6〜1.7倍になるという勧告を出している。

 こうした事情から、「介護負担の軽減のためにもBPSDを改善したいが、抗精神病薬は使いにくく、治療手段が限られる」というジレンマに、多くの治療者は悩まされていた。

■抑肝散への期待
 こうした背景から荒井氏は、神経過敏による不眠症や小児の夜泣き・疳症などに対する効果がよく知られ、自験例でも不眠症などに対する改善効果を経験した漢方薬の抑肝散に着目した。同剤のBPSD改善効果について、TJ-54を使った無作為化試験で以下の検討をした。

 スタディデザインはオブザーバーブラインドスタディである。オブザーバーブラインドにした理由としては、漢方薬の場合、剤型、匂い、味を同一にしたプラセボの作成が困難なため、検討当時、二重盲験によるプラセボコントロールの比較試験が行えなかったためである。

 52例のBPSDのあるdementia患者を抑肝散(TJ-54)投与群27例とコントロール群25例に無作為化した。ベースラインにおいて年齢、認知症サブタイプ、重症度、日常生活活動性スコア(Barthel Index)は両群間に差はない。主要アウトカムはBPSDの評価としてNPIスコア、ADLの評価としてBarthel Index、一般的な認知機能検査としてMMSEを用い検討した。

 結果は、TJ-54投与1か月でNPIトータルスコアは有意な減少(p<0.001)(図1)、NPIサブスケールスコアでは幻覚、興奮/攻撃性、焦燥感/被刺激性、異常行動の有意改善、夜間睡眠障害で有意な改善が認められた(図2)。Barthel Indexでみる身体機能については、TJ-54群は低下させることなくむしろ有意改善を示した(図3)。これは、おもな抗精神病薬がBarthel Indexを低下させるというデータと大きく異なる。一方、MMSEについてはTJ-54群、コントロール群ともに変化は認められなかった。TJ-54はまた、錐体外路症状などの副作用もなく、日常生活の活動性は観察期間終了時まで良好に維持されていた。

 以上の結果から荒井氏は、「認知症に伴うBPSDの治療において、抑肝散は安全でかつ有効性が期待できる選択肢になりうる」と考察し、今後の課題として、「抑肝散の至適投与期間と長期投与によるBPSDコントロール効果の維持が可能かという点を明らかにしていく必要がある」と述べた。

■DLBでは幻視が問題
 
一方、DLBは他のADや脳血管性認知症(VD)に比べて幻視や妄想などの精神症状が強く出現する傾向がある。この幻視の治療についても、抗精神病薬は意識レベルやパーキンソニズムを増悪させるなどの理由で使用を控えるという問題があった。

 そこで荒井氏らは、DLBにおけるBPSDに対してもTJ-54による治療効果をオープンラベルスタディで検討した。方法は、16例のDLB患者に対してTJ-54を1か月投与し、NPIスコアを評価した。その結果、14例の患者でNPIスコアが平均34.7から13.5(図4)、幻視サブスコアは平均7.5から1.5に、いずれも著明に改善した。なかには幻視が消失した症例もあった。Barthel Indexはやや改善傾向を示し、MMSEは変化がなかった。このことは、抑肝散がDLBのBPSDで、特に問題になる幻視の改善を目的とした治療において、安全で有用な選択肢となりうることを示している。

■世界へのDLB情報発信

 
さらに荒井氏は、2006年から始まった日本国内におけるDLBに対する抑肝散の安全性と臨床効果に関する多施設大規模臨床試験(代表研究者:小阪憲司氏;本ワークショップ会長)の概要を紹介した。計画は2段階で、現在は第1段階として、オープンラベルスタディが進んでいる。これは2007年まで継続予定である。その後、第2段階として、無作為化プラセボコントロールスタディが予定されている。そのため荒井氏らはプラセボの作成に取り組んでおり、完成も間近いという。

 このスタディの結果によっては、DLBに伴うBPSDの治療戦略として、新たなエビデンスを世界に向けて発信することになる。DLBは、代表研究者の小阪氏が最初の症例を報告し、その疾患概念を確立したという経緯がある。日本で発見されたDLBに関して、新たな治療にかかわる情報が日本から発信されようとしている。今後の抑肝散をめぐる研究成果がきわめて注目される。
 


主催者に聞く:DLB治療戦略
小阪 憲司氏 第4回 DLB/PDD 国際ワークショップ 会長 聖マリアンナ医学研究所 所長  横浜市立大学 名誉教授

 DLBの患者数は日本国内だけでも40万人、PDD(認知症を伴うパーキンソン病)と合わせると50万人に達する。DLB/PDDには治療上3つのアプローチ、すなわち(1)認知症に対する治療、(2)BPSDに対する治療、(3)パーキンソン症状に対する治療が求められる。


■認知症状に対する治療
 アセチルコリンエステラーゼ阻害薬が有効である。これについてわれわれは、DLBの脳では、コリン作動性神経の神経核であるマイネルト基底核がアルツハイマー病よりも強く障害されていることから、早くから同薬の治療効果を指摘してきた。近年ようやくそれを裏付けるエビデンスが蓄積されるようになり、現在、同薬はDLBの認知症状に対するファーストチョイスとなっている。


■BPSDに対する治療
 DLBの場合は特異な幻視体験の出現頻度が高く、介護者の負担が特に大きいので、BPSDに対する治療は重要である。この場合も、同薬がファーストチョイスとなる。しかし、それが奏効しない症例も少なくなく、次の選択肢として、われわれは非定型抗精神病薬と抑肝散を使っている(DLBは定型抗精神病薬に対し過敏性を特徴とし、診断基準となっているほどなので使えない)。

 ただし、荒井氏も講演で言及したように、非定型抗精神病薬でも身体機能の低下などの問題があり、2005年4月、米国FDAの警告で名指しされた薬剤はすべて広く臨床で使われている非定型抗精神病薬である。しかし実際には、BPSD治療において非定型抗精神病薬を必要とすることは少なくない。その場合は少量から使うといったさじ加減が求められる。

 こうした状況で、一つの解決法となったのが抑肝散である。私も荒井氏らの研究グループの報告を受けて用いたところ、身体機能などへの影響がなく安心して使え、幻視などのBPSDの改善効果も得られることが経験できた。今は、非定型抗精神病薬よりも先に抑肝散を出すようにしている。

 抑肝散だけでBPSDをコントロールできない場合、上乗せとして非定型抗精神病薬を使うこともあるが、この場合も抑肝散を入れていることからごく少量で経過をみることができる。このように、抑肝散は非定型抗精神病薬との併用でも有用性が期待できる。

■パーキンソン症状に対する治療
 L-ドーパ、ドパミンアゴニストなどを使い、パーキンソン病に準じる。

■BPSDの改善に期待
 DLB治療における抑肝散の位置づけは、BPSDの改善に期待がある。日本国内では全国13施設でDLBに対する抑肝散の臨床試験が始まったが、こうした動きは国内に留まらない。米国ではFDAの勧告を受け、DLBにおいて非定型抗精神病薬がますます使いにくい状況にある。こうしたなか、今回、荒井氏によって報告されたデータなどに興味が寄せられ、NIHと日本との共同研究を視野に入れた動きもある。こうした動きからも、米国での抑肝散への関心の高さがうかがわれる。

 また、今回の荒井氏の報告に対して、英国Newcastle大学・生化学研究所のElaine Perry教授からも、抑肝散について詳細を知りたいとの熱心な要請が届いている。同氏はDLB研究の第一人者で、広い視野からハーブ療法を含むさまざまな治療法を検証している研究者として名高い。こうした反響から考えると、今後、欧米でも抑肝散への関心がますます高まっていくだろう。


海外ドクターの声
シンポジウム1 Clinical Features in DLB and PDD:座長 Ian Grant McKeith 氏 
Newcastle大学教授、Institute for Aging and Health, Wolfson Research Centre, Newcastle Genera lHospital, 英国


 今回報告された抑肝散のBPSDに対する明らかな改善効果には非常に強い印象を受けた。問題はプラセボコントロールが現時点ではできていないということで、今後、プラセボの作成による科学的な検証が待たれる。
 欧州でも非定型抗精神病薬の副作用に対する警戒心から、認知症の周辺症状に対するアロマテラピーやハーブ療法に関心が高まっており、いくつかの有望なハーブ療法については臨床試験が始まっている。抑肝散に関する情報はわれわれにはまだ十分届いていないが、同様の動きが世界で起きていることは興味深い。



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