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第1921号
別刷

各種認知症の周辺症状(BPSD)発症モデルでの検討

 認知症の多くは,その周辺症状として攻撃的行動・徘徊などの行動障害や興奮・不眠などの精神症状(BPSD)を発症する。抑肝散(TJ-54)は神経過敏,易興奮,焦燥,不眠などの精神神経症状を目標に使用されているが,BPSD発症動物モデルを用いた検討において,この抑肝散がBPSDの一部を改善することが,第29回日本生物学的精神医学会/第37回日本神経精神薬理学会合同年会(7月11〜13日,札幌コンベンションセンター)において報告された。
 寺脇潔氏(ツムラ研究所)はパラクロロアンフェタミンで誘発されたラットの攻撃行動に対するTJ-54の改善効果を報告し,山口琢児氏(同)はチアミン欠乏マウスの社会的行動性低下および攻撃性増加に対するTJ-54の改善効果を示した。田渕雅宏氏(同)は,アルツハイマー型認知症動物モデルとして知られているAPP遺伝子改変マウスの学習障害と周辺症状に対する抑肝散の改善効果を発表した。


パラクロロアンフェタミン誘発攻撃行動に対する作用

 認知症患者の死後脳では,コリン作動性神経だけでなくセロトニン(5-HT)神経も脱落していること,また5-HT神経機能低下は攻撃性を誘発することから,BPSDの発症には5-HT神経の関与が示唆される。寺脇氏は,5-HT神経毒であるパラクロロアンフェタミン(PCA)で誘発したラットの攻撃性を指標として,TJ-54による攻撃行動に対する改善効果を検討した。
 まず,PCA投与により脳内5-HT含量が持続的に低下することを確認した。次に,PCA投与後14日間の行動をソーシャルインタラクション(SI)試験で評価したところ,攻撃行動増加と社会的行動低下の経日的な増大が認められた。このような攻撃性増加および社会的行動低下は,5-HT1A受容体アゴニストbuspironeあるいは5-HT2A受容体アンタゴニストketanserinの投与により有意に改善された。以上のことから,PCAによる攻撃性増加・社会的行動低下は脳内5-HT機能の持続的な低下により誘発されること,および5-HT1A受容体刺激または5-HT2A受容体抑制により改善されることが示唆された。
 このPCA処置ラットに,単回投与試験(PCA投与14日後にTJ-54または蒸留水を経口投与)と反復投与試験(PCA投与翌日から1日1回14日間,TJ-54または蒸留水を経口投与)を行った。その結果,TJ-54はPCA処置ラットの攻撃性および社会的行動低下に対し,単回投与では効果を示さなかったが,14日間の反復投与により用量依存的に有意な改善作用を示した(図1)
 以上の結果から,寺脇氏は「TJ-54は5-HT神経機能の低下によるラットの攻撃性および社会的行動低下を改善すること,その作用機序として5-HT神経系への関与が推察された」という。
図1) 対象と方法

チアミン欠乏マウスの社会的行動性低下および攻撃性増加に対する作用

 チアミン(TD)欠乏動物は,認知症の中核症状(学習記憶障害)だけでなく,その周辺症状に対しても有効な評価モデルであることが示唆されている。山口氏は,TDマウスの社会的行動性の低下および攻撃性の増加に対するTJ-54の作用を,発現抑制および治療効果に分けて検討した。
 まず,攻撃性発現抑制実験では,Control群,TD群,TD+0.5g/kg TJ-54群,TD+1.0g/kg TJ-54群に分けて21日間飼育し,SI試験を21日目の最終投与の1時間後に行った。その結果,TJ-54はTDマウスで認められた攻撃行動の発現および社会的行動の低下を有意に抑制した。
 攻撃性治療実験では,TD飼育21日目に攻撃性を発現したマウスのみにTJ-54を14日間(35日目まで)経口投与し,SI試験を35日目の最終投与の1時間後に行った。その結果,TJ-54はTDマウスの攻撃行動および社会的行動低下を用量依存的に改善した(図2)
 以上のことから,山口氏は「TJ-54は,社会的行動の低下および攻撃性に対して予防効果を示すと同時に,治療効果を有する可能性が示唆された」と結論した。
図1) 対象と方法

APP-Tgマウスの学習障害と周辺症状に対する作用

 アルツハイマー型認知症動物モデルとして知られているAPP遺伝子改変マウス(APP-Tgマウス)を用い,田渕氏は,学習障害とその周辺症状に対するTJ-54の作用を行動薬理学的に検討した。
 方法は,5カ月齢の雌性APP-Tgマウスで,アミロイドβが沈着するAβ(+)APP-Tgマウスを,コントロール食群,0.5%TJ-54混餌食群,1.0% TJ-54混餌食群の3群に分けて10カ月間飼育した。またAβ(+)マウスに対してAβ(−)マウスのコントロール食群を設定した。その間,高架式十字迷路(不安評価)試験を7,10カ月齢で,オープンフィールド(活動量評価)試験を7,10,14カ月齢で,モーリス水迷路(学習評価)試験を11カ月齢で実施した。
 高架式十字迷路試験では,Aβ(+)コントロール食群はオープンアームの滞在時間と進入回数がAβ(−)群よりも有意に増加し,低不安様状態にあることが示唆された。TJ-54(1.0%)は,このような低不安様状態を7カ月齢で有意に改善したが,月齢が進むにつれその効果は認められなくなった(図3)
 オープンフィールド試験では,Aβ(+)群の活動量は7〜14カ月齢を通じてAβ(−)群よりも有意に多く,過剰活動が発症していることが示唆された。TJ-54(1.0%)は,このような過剰活動を徐々に改善し,14カ月齢では有意な改善効果が認められた(図4)
 モーリス水迷路試験では,11カ月齢における5日間の学習評価において,トレーニング1日目ではいずれの群もプラットフォームへの到達時間(Latency)が50〜60秒であり有意差は認められなかったが,トレーニングを5日間繰り返すことによりAβ(−)群のLatencyは短縮し,学習効果が示唆された。一方,Aβ(+)群のLatencyは5日間のトレーニングにおいても変化が認められなかったことから学習障害が示唆された。TJ-54(1.0%)のLatencyはAβ(−)群と同程度にまで有意に短縮したことから,学習障害改善効果が推察された。
 田渕氏は「APP-TgのAβ(+)マウスは学習障害およびその周辺症状として低不安様状態と過剰活動を発現したが,TJ-54は,このAPP-Tgマウスの学習障害,低不安様状態および過剰活動を改善した」と報告した。
 


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