情報収集・提供活動、研究・開発について

当社は「国内のどの医療機関・診療科においても、患者さまが必要に応じて“漢方”を取り入れた治療を受けられる医療現場の実現に貢献する」ことを目指しています。そのために、大学医学部・医科大学における医学生への漢方医学教育の支援、臨床研修指定病院における研修医への漢方説明会での支援、医療担当者への各種漢方セミナーやプロモーション活動を体系立てて継続実施していきます。

漢方のツムラに向けた取り組み

活動の全体像(卒前・卒直後・卒後の一貫した漢方医学教育)

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漢方医学の確立

漢方医学の確立のため、全国80※1の大学医学部・医科大学における漢方医学に関する講義履修の必修化、漢方医学教育ができる講師を担う人材を育成する場としての学内勉強会の実施、大学病院における臨床実習を目的とした漢方外来※2の設置に対する支援活動を継続してきました。その結果、2004年度には全国80の大学医学部・医科大学のすべてにおいて、漢方医学教育が実施されるようになりました。現在では漢方医学教育が、ほとんどの大学で必修の講義となり、漢方外来も設置されるようになりました。このように、大学での漢方医学教育は着実に定着してきています。
より多くの医師に漢方を取り入れた治療を行っていただくためには、今後も卒前・卒直後、卒後の一貫した漢方医学教育に対する継続的な支援が重要と考えています。

※12つの新設大学除く

※2漢方医学的な診察・治療を行う漢方専門の外来

漢方医学の教育支援

1997年度から全国80の大学医学部・医科大学で漢方医学教育の実態把握に努め、カリキュラムに組み込まれるよう情報提供を行ってきましたが、漢方医学教育を導入した大学は半数にも満たない状況でした。その後、2001年3月に文部科学省が発表した「医学教育モデル・コア・カリキュラム」において「和漢薬を概説できる」と定められたことが、漢方医学教育の大きな転機となりました。さらに、2011年3月の改訂では「和漢薬(漢方薬)の特徴や使用の現状について概説できる」、2017年3月の改訂では「漢方医学の特徴や、主な和漢薬(漢方薬)の適応、薬理作用を概説できる」と文言が修正され、より具体的になっています。これを受けて、当社は3つの目標に基づき大学医学部・医科大学における漢方医学教育の導入支援を行っています。

  • 1. 卒前教育における「漢方臨床実習」の導入推進
  • 2. 大学病院本院に漢方外来の設置
  • 3. 学内教員育成システムの構築(学内で漢方を教える教員の育成)

これらの目標達成に向け、全国80の大学医学部・医科大学に情報提供活動を行ってきました。さらに、漢方医学教育活動を支援するため、カリキュラムの責任者や実際に漢方を教えている教官などを対象に、漢方医学教育の取り組みなどを情報発信する「KAMPO MEDICAL SYMPOSIUM」を2001年から毎年開催してきました。2017年は、全国の大学医学部・医科大学の病院長・医学部長・カリキュラム責任者のほか、文部科学省の担当者など、669名の方が参加されました。

医療担当者への情報提供活動

漢方製剤の信頼を高めるための情報提供活動

当社が「漢方医学の普及」を目標に活動を開始した当時、西洋医学が主体で漢方製剤も使用している医師に処方理由を質問したところ、「西洋薬で治療がうまくいかない疾患に効果を発揮したから」という回答がほとんどでした。そこで、新薬治療で難渋している疾患で、医療用漢方製剤が特異的に効果を発揮する疾患に的を絞った情報提供を展開してきました。とくに、大学病院、臨床研修指定病院の医師にはそのエビデンス(科学的根拠)に基づく情報提供を行っています。
漢方のエビデンス構築の進展や大学医学教育に漢方が導入されたことにより、漢方を理解する医師が増加してきました。漢方治療は同じ病名であってもすべてに同じ漢方薬が処方される訳ではありません。当社は医師に、患者さま一人ひとりに合った漢方薬を提案していただけることを目指して、複数の有効な漢方薬を提案する活動などを実施しています。

医療担当者対象の「漢方医学セミナー」

学生時代に漢方医学を学ぶ機会がなかった医師などを対象に、漢方医学を段階的に学ぶ場として様々なセミナーを開催しています。これらのセミナーは、医師が漢方医学の体系的な知識を学ぶ場であるとともに、医師同士の熱心な議論の場にもなっています。また、漢方製剤は女性特有の疾患にも広く期待が寄せられており、女性専門外来を担当している女性医師を対象としたセミナーも開催しています。
近年、薬剤師・看護師などそれぞれの医療職種が役割分担を見直し、個々の専門性を高め、そのうえで幅広く連携したチーム医療がますます重要になってきています。そのような薬剤師・看護師が漢方の情報を求めるニーズの高まりに応じて、薬学系・看護系学会での「漢方ランチョンセミナー」や、薬剤師・看護師のための「漢方医学セミナー」を開催するなど、継続的な情報提供活動を行っています。

活動の原点

当社の医療用漢方製剤は、1976年に33処方が薬価基準に収載されました。その後、段階的に収載処方数が増え1987年には129処方となり、現在に至っています。薬価基準収載以降、医療用漢方製剤の売上は着実に伸長、1991年度には約1,000億円に達しました。そのような中、当時の主力製品であった小柴胡湯(ショウサイコトウ)に副作用問題が発生。安全性を不安視する声が広がり、医療用漢方製剤全体の売上が低迷しました。この背景として、漢方製剤にも副作用はあるということが、医療現場で十分に認識されていなかったことなどが考えられます。漢方製剤の普及が進む一方で、漢方医学的な診断や有効性・安全性を含めた「漢方医学」そのものが、医療現場や国民の皆さまに十分に浸透していなかったことが一因でした。その後、それまでの営業方針を大きく転換し1997年度から「漢方医学の確立」、2004年度から「育薬」をスタートさせるなど、さまざまな施策を実行してきました。2016年度の実績は数量ベースで2,000万本(実売)を超えました。

医療用漢方製剤129処方の実績推移
(実売数量の伸び)

  • 1991年 小柴胡湯の使用上の注意改訂
    1994年 小柴胡湯とインターフェロン製剤の併用禁忌
    1996年 小柴胡湯の死亡例報告
  • 1997年度
    「漢方医学の普及」を目標にさまざまな施策を開始

    2005年度
    「漢方医学の確立」に目標を変更
  • 2004年度
    エビデンスの確立を目指した「育薬」をスタート
  • 2004年度
    すべての大学医学部・医科大学で
    漢方医学教育が実施される

※実売:医療代理店から医療機関への販売をあらわす

漢方市場の拡大と安定成長

漢方市場拡大のための戦略

漢方市場拡大のための基本戦略として、「高齢者関連領域」「がん領域(支持療法)」「女性関連領域」を重点3領域として活動を集中させています。これら領域の基礎・臨床エビデンス、漢方掲載の診療ガイドラインおよび漢方医学的な処方の使い分け等に関する情報提供を継続的に実施しています。

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この重点3領域では、現状において治療満足度が低い疾患に対する医療ニーズ等を重点課題として取り組んでいます。具体的にはBPSD、フレイル(虚弱)、がん支持療法、更年期障害などに対応した処方の売上拡大を目指します。

※ BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia(興奮、焦燥感、睡眠障害など認知症の行動・心理症状)

エビデンス・パッケージの充実

エビデンス・パッケージとは、添付文書の充実、診療ガイドラインへの掲載とともに、臨床エビデンス・作用機序・副作用発現頻度調査・薬物動態(ADME)・医療経済学的データを揃えることです。
なお、臨床エビデンスは、メタ解析(複数の研究結果を統合し、より高い見地から分析する)とRCT(ランダム化比較試験)のデータとしています。

※ ADME:Absorption(吸収)、Distribution(分布)、Metabolism(代謝)、Excretion(排泄)の略語。生体に薬物を投与した後に、体内でどのような動態を示すかをみる

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新技術による漢方薬の解明事項

漢方薬は、植物由来の多成分系複合製剤という特性があることから、これまで科学的な解明が困難とされてきました。今後は、有効性・安全性を示す臨床研究やエビデンス構築だけでなく、多成分による作用メカニズムの解明、医療経済学的効果の検証など、漢方薬の有用性を示していく研究なども新たな基軸として実施していきます。
近年、東京大学など最先端アカデミアがもつ新技術が進展し、IT技術や新分析法などを用いた漢方薬の研究や分析が進んでいます。

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※1システムバイオロジー:生体機能を個々に分解するのではなく、統合的に理解するために、AI(人工知能)、生理学や生物工学を利用して、さまざまな役割をもつ組織や遺伝子などがどのように関わりあうかを解明する生物学のアプローチの一種

※2多成分系ネットワーク:漢方薬の場合、多成分が多様な部位に作用し、薬効を示すと考えられる。それらを総合的に解析して見出される関連性(ネットワーク)としての作用メカニズム

※3メタボロミクス:温度や光などの環境変化や食事、薬物摂取などの外部刺激によって、生体内に存在する代謝物質の種類や濃度に変化が起こる。これら代謝物質を、質量分析計などを使って分析・解析する手法のことであり、病気の診断などに応用されている研究領域

※4バイオマーカー:疾患の状態や変化、治癒の程度の評価を可能にする生体由来因子

※5腸内細菌解析:腸内には、多種多様な微生物、細菌などが存在しており、これら細菌などを解析することにより、その由来などを調べる手法、技術

※6レスポンダー・ノンレスポンダー:薬が効く人・薬が効かない人

※7ビッグデータの活用:膨大な日常の医療データを活用した疫学研究から行う医療の質評価、医療経済分析など

TU-100(大建中湯)の米国開発進捗

漢方・生薬事業を通じて培った技術・ノウハウと、日本国内の「育薬」研究による基礎・臨床の最新データを米国開発に連携させる体制を整え、TU-100の米国における医療用医薬品としての承認取得・上市を目標に活動しています。
臨床試験につきましては、IBS(過敏性腸症候群)、POI(術後腸管機能障害)、クローン病を対象にすすめており、いずれもPhaseⅡ前期の段階となっています。
なお、IBS、POI 、クローン病のすべてのPhaseⅡ前期が終了・解析したのち、2018年度中にPhaseⅡ後期以降の開発方針・スケジュールを決定する予定となっています。
これまでに、FDA(米国食品医薬品局)が求めている植物製剤の安全性に関して、日本国内における副作用発現頻度調査結果を報告しました。また、成分分析を用いた複数の植物を原料とする生薬製剤の科学的品質評価方法についても一定の合意を得ることができました。
引き続きFDAとの相互理解を得ながら、米国での漢方製剤上市に向けた活動をすすめていきます。

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育薬5処方の基礎・臨床研究

  • 大建中湯ダイケンチュウトウ 対象疾患・症状 術後イレウス(腸管麻痺)などに伴う腹部膨満感
    大建中湯の当該対象疾患・症状における臨床的エビデンス確立を目的として、2007年に「DKTフォーラム」が設立されました。このフォーラムでは、4つの臨床研究(大腸班、肝外科班、胃・食道班、臨床薬理班)と、大建中湯の作用メカニズム解明を目的とした基礎研究が開始されました。この研究結果は国内外の学会などで発表され、2015年には、Journal of the American College of Surgeons(JACS)誌など、すべての結果が英文誌に掲載されました。
    現在の消化器外科領域では、手術後早期回復の観点から、ERASプロトコルという考え方が注目されています。
    大建中湯においても、消化管運動亢進、腸管血流増加、抗炎症などの作用があり、このERASプロトコルに合致する医薬品として、その有効性が検討されています。現在、全国14の施設において、成人肝臓移植後の消化管障害に対する有効性に関する検討が実施されています。
    また、手術の負担が少なく、手術後早期回復に役立つとされる腹腔鏡下手術における腹部膨満感に対する研究も開始されました。 ※ERASプロトコル:手術後の早期回復に有効なことが医学的に証明された手法を総合的に導入する管理方法。(ERASは、Enhanced Recovery After Surgeryの頭文字の略)
  • 六君子湯リックンシトウ 対象疾患・症状 FD(機能性胃腸症)、GERD(胃食道逆流症)などに伴う上腹部不定愁訴、食欲不振
    六君子湯においては、これまで実施されたさまざまな臨床研究に基づき、2015年に改訂された『胃食道逆流症診療ガイドライン(日本消化器病学会編集)』に治療手段としてとりあげられました。
    また、健常人を対象としたADME(薬物動態)臨床試験の結果が、2015年7月医学雑誌「PLOS ONE」に掲載されました。さらに2016年度から副作用発現頻度調査を開始し、有効性とともに安全性の情報も充実してきました。
    今後の消化器内科領域の展開として、六君子湯の研究により得られた知見をもとに、六君子湯の効果が不十分な患者さまに対して、半夏瀉心湯など他処方の研究をすすめ、漢方製剤の有効性を追求していきます。
    一方、新中期経営計画における重点3領域のひとつである高齢者関連領域に対して、六君子湯を中心に食欲不振などに対する有効性を確認する臨床研究に着手しています。
  • 抑肝散ヨクカンサン 対象疾患・症状 認知症の行動・心理症状(BPSD)
    抑肝散は、2004年度からエビデンス集積に取り組み、作用メカニズムの解明、活性成分が同定され、その成分が血中に吸収されることが健常人で確認されました。
    臨床では、認知症の行動・心理症状(BPSD)への効果確認や副作用発現頻度調査が行われ、有効性や安全性のエビデンスが集積されています。
    その結果、『認知症治療ガイドライン2010(日本神経学会監修)』『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015(日本老年医学会編集)』に掲載されるなど、広くBPSDの治療方法として知られるようになりました。
    認知症患者さまを対象とした睡眠障害の臨床研究結果が、The Journal of Prevention of Alzheimer’s Disease誌に掲載されるなど、不眠症や不安神経症などの精神神経症状を有する疾患に幅広く臨床応用されています。
    今後も、抑肝散の研究により得られた知見をもとに、BPSDにおける抑肝散類似処方の使い分けや、抑肝散の効果が不十分な患者さまに対して、他処方の研究をすすめ、漢方製剤の有効性を追求していきます。
  • 牛車腎気丸ゴシャジンキガン 対象疾患・症状 抗がん剤などによる末梢神経障害(しびれなど)
    半夏瀉心湯ハンゲシャシントウ 対象疾患・症状 抗がん剤などによる粘膜障害(下痢・口内炎)
    牛車腎気丸は抗がん剤投与にともなう末梢神経障害(しびれ・痛み・冷感)に対して、半夏瀉心湯は化学療法(抗がん剤投与)や放射線療法にともなう消化管粘膜障害(下痢・口内炎)に対して、それぞれの症状の軽減を目的に研究がすすめられています。
    その結果として、半夏瀉心湯のがん化学療法中の口内炎に対する有効性を示唆するHANGESHA-G Study論文が、Cancer Chemotherapy and Pharmacology(CCP)誌に2015年5月掲載されました。
    また、六君子湯は抗がん剤投与による悪心や食欲不振などに対して、がん領域におけるエビデンス構築に向けて多くの基礎・臨床研究ならびにGCPに準拠した製造販売後臨床試験が実施されています。さらにがん領域でニーズの高いがん関連疲労における漢方製剤の有効性についても検討がすすめられています。

    ※GCP(Good Clinical Practice):医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令