まとめ

食欲不振とは
食欲不振とは、何らかの理由によって食べる気がしない、お腹がすかない、といった状態をさします。
食欲不振の治療
胃腸虚弱はさまざまな不調や病気に関わっていることが多いので、漢方では胃腸の状態をとても重視します。
食欲不振などの胃腸症状は、「虚証」と「実証」を判断する大きな指標の一つにもなっています。
病院での診察
漢方の診察では、独自の「四診」と呼ばれる方法がとられます。月経の状態、日常生活のことなど、食欲不振とはあまり関係のないように思われることを問診で尋ねたり、おなかや舌、脈を診たりすることがありますが、いずれも薬を決めるための手がかりになりますので重要です。
食欲不振

食べたいけれど食べられない、食べる気がしないといった食欲不振の原因は、精神的なストレスによるもの、胃腸の機能低下によるものなどが考えられます。食欲不振が続くと体力が消耗して、疲れやすくなったり、貧血になったり、ますます体調を崩すことになりますので、できるだけ早い手当が大切です。また、食欲のない期間が長引いている、食べようと思ってももどしてしまう、やせてきたといった場合は、重大な病気が隠れている可能性がありますので、医師に一度、診てもらったほうがよいでしょう。

食欲不振のメカニズム

食欲不振とは、何らかの理由によって食べる気がしない、お腹がすかない、といった状態をさします。病気ではなく、一つの症状です。多くは二日酔いやタバコの吸いすぎ、暴飲暴食、脂っこいものを食べた後、深夜の食事、疲労したとき、睡眠不足など、生活の延長線で起こりますが、胃がんや膵炎、膵臓がん、胆石、肝炎、甲状腺機能低下症などの病気、妊娠でも起こります。若い年代では、極度なやせ願望や精神的な問題から神経性食欲不振症をわずらっている場合もあるので、注意が必要です。

最近では、検査で胃の粘膜にただれや出血などの器質的な病変がないのにもかかわらず、さまざまな胃の症状を訴える状態が12週以上続く場合を、機能性胃腸症「FD: Functional Dyspepsia」と呼ぶようになりました。これまで慢性胃炎、胃下垂、神経性胃炎などと呼ばれていたのを一つの状態にまとめたものと考えてよいでしょう。胃もたれはFDの特徴的な症状のひとつで、そのほかに食欲不振、腹部膨満感、吐き気、胃痛、胸やけなどが挙げられます。

FDの原因は胃の機能低下、胃酸分泌の異常、ストレスなどによる胃腸障害、薬剤の影響、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染などが示唆されていますが、いずれもはっきりしていません。

食欲不振が何らかの病気で起こっている場合は、そちらの治療を優先します。一方、生活習慣の乱れによって生じている場合は、食事の内容に工夫したり、タバコやアルコールを控えたり、たっぷりと睡眠をとったりするなど、生活の改善を行っていきます。

食欲不振の薬物治療

一次的な食欲不振では、胃腸薬を用いて改善を図ることもできます。食欲不振によい胃腸薬の種類としては、胃の機能を活発にする「健胃薬」があります。桂皮、生姜など漢方薬に配合される生薬も健胃薬の成分として、市販の胃腸薬に含まれていることがあります。健胃薬は食事の30分前くらい前までに飲みますが、購入するとき、処方してもらうときには、薬剤師や医師に服用の注意点を聞き、正しく服用することが大切です。

症状を抑える対症療法と生活習慣の改善の2本柱で治療を進めます。対症療法は、胃酸の分泌を調整するH2ブロッカーなどの胃酸分泌抑制薬の服用、不安などが強い潰瘍型なら抗うつ薬の服用になります。

漢方薬の治療

基本的に漢方では、胃腸の状態をとても重視します。なぜなら胃腸虚弱はさまざまな不調や病気に関わっていることが多いからです。したがって食欲不振など胃腸に問題が起こっている場合は、できるだけ速やかに治療をする必要があります。 食欲不振などの胃腸症状は、「虚証」と「実証」を判断する大きな指標の一つにもなっています。食欲不振の人はたいてい虚証です。興味深いことに、食欲不振があるときは、たいてい腹部を診るとみぞおちに「ポチャポチャ」という音が聞こえます。これを漢方では「胃内停水(いないていすい)」と言って、胃に余分な水分が溜まっていることで、胃の機能が低下しているという状態を示します。
生活の乱れによって起こる一次的な食欲不振には、胃の血流をよくしたり、消化機能を改善させたりする漢方薬、なかでも生薬の薬用人参が含まれる人参湯類の漢方薬がよく用いられます。もともと虚弱体質で食が細いような人にも人参湯類は効果的です。

食欲不振に関して用いられる漢方薬の中で最も多くの臨床的・基礎的研究が行われている薬剤は六君子湯(りっくんしとう)です。六君子湯のFDに対する作用として以前から胃排出・貯留能の促進作用があり、さらに最近では食欲促進作用を有するグレリン(消化管ホルモン)の分泌を促進することが科学的に明らかになっています。そのため、六君子湯はFD治療の選択肢の1つとなることが期待されており、今後の研究の成果が期待されています。
もちろん、風邪などの全身性の病気や消化器系の病気などが原因で、食べられないというに場合は、その病気や症状にあわせた漢方薬を使います。原因となる治療は西洋医学の薬、食欲不振に対しては漢方薬というように、薬を併用することも少なくありません。

食欲不振の治療で用いることが多い漢方薬

六君子湯(りっくんしとう) 体力中等度以下で、胃腸が弱く、食欲がなく、疲れやすい方の胃炎、胃腸虚弱、消化不良、食欲不振など
半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう) 体力中等度で、みぞおちがつかえた感じがあり、ときに悪心があり食欲不振で腹が鳴って軟便又は下痢の傾向がある方の消化不良、神経性胃炎、胃弱、口内炎など
補中益気湯(ほちゅうえっきとう) 体力虚弱で、元気がなく、胃腸の働きが衰えて疲れやすい方の疲労倦怠、病後・術後衰弱、食欲不振など
十全大補湯(じゅうぜんたいほとう) 体力虚弱な方の病後・術後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振など
人参養栄湯(にんじんようえいとう) 体力虚弱な方の病後・術後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、手足の冷えなど
平胃散(へいいさん) 体力中等度以上で、胃がもたれて消化が悪く、ときにはきけ、食後に腹が鳴って下痢の傾向がある方の急・慢性胃炎、消化不良、食欲不振など

漢方の診察では、独自の「四診」と呼ばれる方法がとられます。月経の状態、日常生活のことなど、食欲不振とはあまり関係ないように思われることを問診で尋ねたり、おなかや舌、脈を診たりすることがありますが、いずれも薬を決めるための手がかりになりますので、重要です。

医療用漢方製剤はお近くの医療機関で処方してもらうこともできます。
ご自身の症状で気になることがありましたら、一度かかりつけ医にご相談ください。
(すべての医師がこの診療方法を行うとは限りません。一般的な診療だけで終える場合もあります。)

監修医師

東海大学医学部専門診療学系
漢方医学 教授
新井 信先生
新井 信 先生

医学博士、薬剤師
東京薬科大学 客員教授
東北大学薬学部、聖マリアンナ医科大学、
横浜市立大学医学部、昭和薬科大学、防衛医科大学校、
東海大学医療技術短期大学 非常勤講師
漢方専門医・指導医、総合内科専門医、医学教育専門家
東亜医学協会 理事
和漢医薬学会 常務理事
日本東洋医学会
日本医学教育学会

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