INTERVIEW わたしの#OneMoreChoice

誰もが心地よく生きるための
新しい選択肢についてお話を伺いました。
いろいろな選択肢から、あなたにとっての
#OneMoreChoiceをみつけませんか?

#012

「全員複業、女性起業家創出」…
異色スタートアップCEOが提案する、
多様性との向き合い方

若宮 和男さん/
起業家/アート思考キュレーター

多くの女性が「隠れ我慢」を抱えているといわれています。
「隠れ我慢」とは、
不調を我慢して仕事や家事をしてしまうこと。
ツムラが実施した調査では、
全国20~50代女性の約8割が「隠れ我慢」を抱えながら
日々過ごしていることが分かりました。
株式会社uni’que CEOで起業家の若宮和男さんは、
ダイバーシティへの理解について
「とても難しく、いくら意識していても
目隠しをして歩いている感覚」と表現します。

女性主体の事業創出をミッションに掲げ、全員複業での
スタートアップ起業に取り組む若宮さんに、
多様性との向き合い方を伺いました。

多くの女性が「隠れ我慢」を抱えているといわれています。
「隠れ我慢」とは、不調を我慢して仕事や家事をしてしまうこと。
ツムラが実施した調査では、全国20~50代女性の約8割が「隠れ我慢」を抱えながら日々過ごしていることが分かりました。
株式会社uni’que CEOで起業家の若宮和男さんは、ダイバーシティへの理解について
「とても難しく、いくら意識していても目隠しをして歩いている感覚」と表現します。

女性主体の事業創出をミッションに掲げ、全員複業でのスタートアップ起業に取り組む若宮さんに、
多様性との向き合い方を伺いました。

反対されてやめていたら、
新しい選択肢は生まれない

――若宮さんはなぜ、
女性を主体とした事業づくりを
テーマに起業されたのでしょうか?

キャリアの長い間、
僕は大きな企業で新規事業の立ち上げをしてきました。

世の中でいまだかなえられていない課題を掘り起こして、
解決するためにサービスを開発することを
目的としていましたが、
そこでは女性社員の数が極端に少なかったんです。

多くの場合、新規事業を立ち上げるか否かを
決める決裁者は男性になります。
だから会議の場で女性が抱えるニーズや
課題設定を説明しても、
ほとんどの場合は理解されません。
たとえ素晴らしいアイデアがあっても、
男性で占められる決裁者が理解できない限り、
サービスは世に出ないわけです。

それでいいのか? 
むしろ女性主体でつくり上げる事業にこそ、
まだ世にない価値を生み出せる可能性が
たくさんあるんじゃないか? 
と思いました。

新規事業立ち上げの現場でマイノリティを理由に
採用されない事例を
たくさん見て、
純粋に「もったいない」と感じたことが、
uni’queを創業した一番の理由です。

――uni’queは「全員複業」がルールと伺いました。
フルコミットが前提になりがちなスタートアップでは
まれですよね。

おっしゃる通り、フルコミットが前提で、
女性が起業するとなったら
「当面、結婚や出産を諦める決意はありますか?」
と聞かれてしまう。
そんな世の中です。
実際、ほとんどの投資家や先輩起業家からは、
「複業や女性主体のスタートアップなんて無理だ」
と言われていました。

でも、「みんながダメって言うからやめておこう」
と黙っていると、
新しい選択肢は生まれないじゃないですか。

長く働くことが是とされるカルチャーの中で、
女性は妊娠や出産などライフステージの変化によって
キャリアを離脱し、
そんな自分のことを責めてしまう
ケースがあります。
でも、それは本来責めるべきことでは
ない。
ライフステージが変わることで見える景色も
ありますよね。
特に起業家であれば、
それらは事業アイデアにつながる経験にも
なりますし、
労働時間の量に左右されず、多様な価値軸を持つことは、
むしろビジネスにとってはポジティブです。

あと、そもそも僕はあまのじゃくなところがあって、
選択肢が一つしかない社会が嫌なんです。

先例がないのであれば、つくるしかない。
王道の経営なら自分以外にもできる人がいるので、
どうせなら新しい選択肢のあるビジネスを
つくりたかったんです。

常に死角があると自覚する
「それでも多様性は難しい」

――女性主体の事業をされる中で、
男性である
若宮さんがマイノリティになる場面もあると思い
ます。
そこで感じたことはありますか?

マイノリティ側は無意識にミュートされやすいんだ、
と感じます。
僕のいる環境は組織的にも立場的にも
一般よりはだいぶフラットだと
思いますが、
それでも女性たちの会話が盛り上がっているとき、
会話に入ろうかどうか逡巡(しゅんじゅん)したり、
空気を読んだりしてしまう。
非対称性の中で、つい言えないことがある。

だから、15人中14人が男性の打ち合わせで
「異論ある人?」と聞かれて、
女性が発言するのは相当に勇気が要ることですよね。

ミュートされがちな構造では聞く側が
しっかりと耳を澄ませてないと、
マイノリティ側の意見は「ないこと」にされたまま
進んでしまうんですね。

――マイノリティ側の意見を拾い上げることの効果に
ついては、
どのように考えますか?

その点に関しては、短期的な成果はあまり求めないこと

肝要だと思っています。

重要なのは、ミュートされてきた小さな声を、
その都度、
適切に拾い上げること。
ジェンダーの問題も、「つらい」と
声を
上げられるようになったこと
それ自体が前進なんだと思います。

短期的に考えれば同質性が高く多様性がないほど、
意見をまとめやすく、すぐに結論が出ます。
一方でたくさんの意見が出るほど、
まとめることが難しくなります。

多様な意見が増えるとシンプルに
時間も労力もかかるので、
スピードが落ちているように見える。
中長期では持続的に成長するために必要なのですが、
短期での評価が難しいのは、
気を付けなければいけないポイントですね。

中にはテクノロジーで解決できることもあり、
例えばオンライン会議ツールのチャットや
ブレイクアウトルームなどの
機能で、
フラットに意見が出せる状況をつくりやすくなりました。
会議が進行している最中に声で
カットインするのは難しいですし、
何十人もいる中で意見交換するより、
小規模人数に
分かれた方が自分の意見も出しやすいですよね。
声の大きさや多数決ではなく、
その中で「そんな考え方があるんだね」
「そこは気付いていなかった」という意見が
出ていることに価値がある。
目の前の施策にはすぐには生かされなくとも、
気付いていなかった観点が見つかるだけで
意味があることだなと思います。

――多様な意見に耳を傾けて答えを出していくのは、
簡単ではないですよね。

多様性ってすごく難しくて、
どれだけ意識しても
死角ができてしまうものだと思います。

僕自身、多様性やジェンダーを分かっている人物として
メディアに取り上げていただきますが、
年に何回か、
自分に対して
「全然分かっていないな」と感じることがあります。

それは目隠しをして歩いている感覚に近くって、
意図せず誰かの足を踏んでしまう。
そして、その人が声を上げなければ、
気づいて謝ることもできない。

――組織ごととしてできることはあるでしょうか。

既存の組織も新しくつくられる組織も同じで、
多様性を受け入れるためには、
経営者の覚悟と一定の強制力が必要なところも
あると思います。

例えば、働きたいだけ働けて、
残業代も出る企業があるとします。
一見すると、社員のやる気を尊重し対価も出る
ホワイト企業のように見えますが、長時間労働の陰では、
家庭に大きな負荷がかかっていたりする。
業績は伸びても、社会全体に対する負荷は非常に高く、
「見えないコスト」がたまっているかもしれません。

なので、本気で組織としての
体質を変えていくのであれば、
経営的な指標自体を変えて、
社会への負担もトータルで見るべきですし、
クオータ制度など強制力をもって
変革していく必要があると思います。
家庭の負荷を抱えがちな女性の人数比率を
クオータ制により
半強制的にでも上げ、
労働環境以外のコストを可視化することも
重要だと思います。見えていない人がいくら集まって
議論しても、
死角にある意見や観点は出ませんから。

※クオータ制
格差是正のためにマイノリティに割り当てを行う
ポジティブ・アクションの手法の一つ。
出典:男女共同参画局
https://www.gender.go.jp/research/kenkyu/pdf/gaikou_research/2020/05.pdf

――多様な意見を知るために、
ご自身で意識して行動されていることはありますか?

僕が心がけているのは、異なる場所に足を運ぶことと、
質問をすることです。

今年は毎月1カ所ずつ全国の違う地域に滞在して、
その地域の方々の相談に乗る企画をやっていました。
そこで高齢化が進んでいる介護の現場に行くと、
自分がいつもいるITベンチャー業界とは
まるで違う価値観と
出会うことができます。

そういった出会いを増やすことで、
自分が認識していない多様性についての
少し想像力が持てる。

少しずつ弱音を吐ける環境へ
親世代の変化がカギ?

――女性の8割が「隠れ我慢」をしているという
調査結果が出ています。
若宮さんの周囲で
「隠れ我慢」をしている人がいるなと、
感じることはありますか?

起業準備中の方で、家庭の事情で進捗(しんちょく)が
止まり、
2カ月間ほど一人で抱え込んでしまった方が
いました。

生活の変化やメンタルヘルスの課題などで、
事情があってパフォーマンスを出せないことは
往々にしてあります。

それを彼女の場合は自己管理不足とか、
自身の能力不足だと捉えてしまい、
抱え込んでヘルプを求めることができなかった。
実際は能力不足だなんて誰も思っていませんし、
サポートできることもたくさんあります。

月経や生理休暇も同じ。
以前は口にすることもタブー視されていましたが、
積極的に言語化し、共通認識を取っていくことで
チームとして解決できることもある。

そのためにも、まずは「知る」ことが一番大事ですよね。
そもそもどういうときに
どんなつらさがあるのかを知らないと、
私たち周囲の人間も対処のしようがないですし、
そこで黙られてしまうと、
意見がミュートされて見えなくなってしまって、
また新たなつらさが生まれてしまいます。

誰かのつらさを知り、それが全体の共通理解になれば、
工夫して仕組み側を直すことができるかもしれません。
こうした意見はバグ出しみたいなもので、
言ってもらったほうが組織ごととして
改善できるからありがたいこと
なのですが、
自己責任のような空気感が漂うと
本人は黙ってしまいます。
なので、誰かのつらさを知って直していくことを
是とする意識を、
チーム内で共有することも
大切ですよね。

uni’queでは、お互いサポートし合うことを
事前に共通認識として
持っているので
「月経前なのでパフォーマンスが落ちています」とか
「PMSなので会議をスキップします」とか、
自己嫌悪に陥らず、他者を頼れる環境を心がけています。

僕自身も経験があるのですが、自分が我慢していると、
相手にも我慢を求めるようになりますよね。
「自分は我慢しているんだから、あなたも我慢してよ」
と。

すると、お互いに弱音を吐けないのは苦しいですし、
適切なサポートができず、パフォーマンスが下がって
しまう。
こういった悪循環を取り除くために、
積極的に共通認識を取って、
我慢を隠させない準備が必要なんです。

――若宮さんは、
日本男性のヘルスケア教育の
遅れについても言及されています。

僕たちの世代はヘルスケア教育や性教育を
しっかりと受ける機会がなかったと思っています。
学んでいなければ、死角はより多くなりますから、
無意識で誰かを傷つけてしまう事例は
数多くあると思います。

一方で、最近は調べれば学ぶことができますし、
一度学ぶ機会さえあれば、
振る舞いが変わる方もたくさんいます。

日本はまだまだ変化が必要なことは確か。
一部では性的なことがタブーとされたり、
ふしだらなことのように扱われてしまっていますし、
このままだと以前と同じ性教育の水準で、
無知が再生産されてしまう。

教育だけでなく家庭内においても、
こうした無知や隠れ我慢が発生しないよう、
性の共通認識を取っておくことが重要です。
そのためにも、今の親世代が意識的に変われるか
どうかが
分かれ目になると思っています。

若宮 和男(わかみや かずお)
建築士、アート研究者を経てIT業界に転身、ドコモ、
DeNAにて多数の新規事業を立ち上げる。
2017年、「全員複業」で女性主体の事業をつくる
スタートアップ・uni'queを創業し、
東洋経済「すごいベンチャー100」選出。
現在はメタバースクリエイター事業も立ち上げ中。
資生堂などの外部ブレーンを務める他、ビジネスに
限らず、アートや教育など領域を超えて活動。
ダイバーシティやコミュニティ関連でも取材多数。
著書に『ハウ・トゥ・アート・シンキング』
『アート思考ドリル』。
福岡女子大学客員教授、長野県立大学客員准教授。

取材・文=川口あい 撮影=Shin Ishikawa
取材日=2022.12.22
※掲載内容は、取材時点での情報です

取材・文=川口あい 撮影=Shin Ishikawa
取材日=2022.12.22
※掲載内容は、取材時点での情報です

これがわたしの#OneMoreChoice

これがわたしの#OneMoreChoice

――最後に、若宮さんの「わたしの#OneMoreChoice」、
自分なりの選択肢について教えてください。

「補助線をたくさん引いてみる」です。

補助線は、数学に出てくる、
角度や面積などを
求めるために図形の中に描き込む線のことです。
正解にたどり着くまでたくさんの補助線を
描いたり消したり
試行錯誤しますよね。

僕たちもある世代、ある地域で生きていると、
図形の見方が固定化したり、
見えなくなっていること
だったりがあるじゃないですか。
だから社会を見るときに一つの補助線で捉えるのではなく、
「別の補助線はないかな?」と考えてみることが
大切だと思うんです。

数学には正解がありますけど、僕たちの世界に正解なんて
ありませんから。
固定化せず、
見方を変え続けられるよう心がけたいと思います。

若宮 和男