どこに診てもらえばいい? 「心と体のサインをひもとく」

2026年7月12日(日) 14:30~16:30
会場:星陵会館(千代田区)

すごく辛い症状なのに、だれにもわかってもらえない。
「MUSとPMS」その正体と対処法。

「通常の生活ができないのに、検査数値は異常なく「健康です」と言われてしまう。」
「さまざまな診療科を受診したが、根本的な不調は何も解決しなかった。」

検査しても原因がわからない不調は、医学的にはMUS(medically un- explained symptoms)と呼ばれ、女性の5人に1人がこうした不調を抱えていると言われています。MUSの患者さんは適切な治療を受けることが難しい上、自分の症状を周囲に理解してもらえないことも多く、医療と社会のはざまで埋もれてしまう「沈黙の社会問題」と言われています。実はMUSはPMS(月経前症候群)とも大きく関係していることが指摘されています。では医療や社会は、この問題をどのように解決に導くことができるのでしょうか。

パネリストとして、国立成育医療研究センター・女性の健康総合センターでセンター長を務める小宮ひろみさん、南多摩病院 総合内科・膠原病内科部長の國松淳和さん、翻訳家でミュージシャンの惠愛由さん、三重県桑名市役所市長公室・SDGs推進課課長の後藤峰子さんを招き、それぞれの立場からMUSに対する考え方や対応策を語っていただきました。

MUSを考えていく上で重要なことは、
女性特有のホルモンバランスの問題

「元気な日は月に2~3日。常に不調を感じていて回復しない(30代女性)」
「手先足先が冷たくて眠れない。どの医療機関にいけばいいかわからない(40代女性)」
「疲れと集中力不足で仕事に影響。休日もつかれで外出できない(40代女性)」
こうした症状の正体は何なのか、どのように対処すればいいのでしょうか?

國松 MUSは、日本語では不定愁訴という言葉をあてがわれることが多いのですが、医学的に説明できない症状をひとまとめにした言葉。つまり医療者側が定義した概念であり、診断名ではありません。だから「あなたはMUSです」といわれても、患者さんは救われないと思っています。

 人間関係でも病気でも、名前のつかないものというのは居場所がなく、放っておかれることが多いですね。

後藤 桑名市では女性の健康をキーワードに新しいまちづくりを進めていますが、昨年、女性の健康の悩みについてアンケートを取りました。さまざまなことがわかりましたが、多くの人が「女性特有の悩みだから我慢するしかない」「体質的なことだからしょうがない」と諦めてしまっている現状が浮き彫りになりました。

小宮 女性の場合、月経によってホルモンバランスが大きく変動します。PMS(月経前症候群)は頭痛や腹痛など体的に調子が悪いものと、イライラする、気分が落ち込む、集中力が低下するなど精神的なものがあり、およそ150種類の症状があるといわれています。MUSとPMSはかなり重なっている部分があると私は思っています。ただ、だるさや頭痛のようなPMSの症状が非常に強く表れると、その症状をPMSと切り離して別の原因があるかもしれないと考えてしまうことも多いのではないでしょうか。

國松 そうですね。PMSに加えて、MUSを考えていく上で重要なことは、1人の人間は複雑な構成要素でできているということです。例えば患者さんが「だるい」という症状を訴えたとします。そうすると医療者はだるさの原因を1つの病気に落とし込みたいと考えて、検査をするわけです。症状と原因が1対1の関係にあると思うわけです。でも貧血や慢性的な寝不足、人間関係の悩み、親の介護…こうした問題の集合体である患者さんが病院に来て「だるい」と言っている場合、検査しても異常値が出ないMUSに当てはまりがちです。それならどのような治療をすればいいのか。私は、からまった糸を解きほぐしていくイメージで、治せるせるものは治し、患者さんが抱えている問題を1つ1つ解きほぐして整理してあげることが大切だと考えています。

症状を「全身の状態」として捉える漢方は、
MUSやPMS 治療の大きな選択肢

会津医療センター 漢方内科の事例

ある朝、起きて床に足を着けると膝から下がしびれて、痛みもある。毎日同じ痛みに襲われるので整形外科や婦人科を受信したが「悪いところはありません」といわれる。やがてしびれに加えて激しい冷えを感じるようになり、漢方外来を受診。
漢方医は足の痛みという部分にとらわれるのではなく、全身の流れ・滞りに注目。下半身の「水」の滞りを改善する漢方薬を処方したところ、しびれや痛み、冷えなどが改善した。

ぎっくり腰になり、それから食欲が急激に低下。その後、めまい、ふらつき、頭痛などの症状が現れる。胃腸科、脳神経科、心療内科などにかかったが原因がわからず、自分の身に何が起こっているのか大きな不安に襲われる。漢方医は上半身の代謝の悪さが原因で食べ物が入っていかないと判断、上半身の「水」の流れを改善。さらに強い不安感は「気」の滞りが原因と考え、上半身の「気」の流れを改善する薬を処方。3か月ほどかけて、徐々に食欲を取り戻していった。

小宮 漢方では患者さんの症状を1つだけの原因と考えるのではなく、気(き)、血(けつ)、水(すい)の流れが悪くなると症状がでてくると考え、全体を診ながら改善していくのが大きな特徴です。そのため原因を特定できないMUSや、西洋医学だけでは解決が難しいPMS治療の選択肢になると私は考えています。私自身、MUSやPMSに苦しめられた経験があるのですが、漢方に助けられました。

國松 漢方薬がないと困ってしまうくらい、私も漢方薬を使っています。薬の選択肢が非常に多いのも魅力ですね。

どこで診てもらえばいい?

小宮 日本東洋医学会が漢方専門医の認定をしているので、ホームページなどで近所の専門医を探していただければと思います。私たちが運営している「女性総合診療センター」でも女性漢方外来を立ち上げたので、選択肢の1つにしてください。

体、生活、社会のからみあった糸を
1つ1つ解きほぐして整理してあげる

南多摩病院 國松医師の事例

社会人になって間もなく、1週間2週間と続く発熱に苦しむようになった患者さん。いくつかの病院で診てもらったが原因分からず。総合病院でCT やMRI、血液検査など1年間を通して検査したが原因を特定できないまま会社も休職。國松医師のことを知り、南多摩病院を受診。詳しく話を聞いた國松医師は、「高熱」ではなく、脳の視床下部が体温機能をうまく調整できていない「高体温」と診断。脳の緊張を和らげる薬を処方することで、熱があがりにくくなり外出の機会も少しずつ増え、職場復帰につながった。

國松 原因不明の症状が長く続く人は、複数の要因が絡まっていることがほとんどだと私は考えています。こういう患者さんは、自分の疲れに対するメーターが働いていないことも多く、無理をしていることに気づかないのです。例えば「よく眠れない」という症状で来院された患者さんに睡眠薬を出しますといったら、それは困ります、朝5時に起きて主人のお弁当を作らなければいけないからと言われたことがありました。自分の体を基準にするのではなく、自分で決めた規範を基準に生活しているのです。「え、朝5時に起きるのですか」「毎日お弁当作るの大変じゃありませんか?」と尋ねると、自分が無理していたことに「あ、そうか」と気づいてくれました。女性の原因不明の症状には、PMSを始めとする疾患が関わっていることが多いのですが、人間関係や生活習慣も深く関係しているのです。

 自分にとっての「普通」は自分ではなかなか疑えないのだと思います。そのことを語るに値しないと思っているので、体調不良の原因がそこにあるとも思っていないのでしょうね。

どこで診てもらえばいい?

國松 大きな病院の総合診療科は、原因不明の症状に悩んでいる人の味方になってくれると思います。

凝り固まった社会の「思い込み」が
MUSの温床になっているのかもしれない

桑名市の事例

夜泣きの激しい赤ちゃん。夫が2か月間の育児休暇を取得し、夫婦交代で子育ての難しい時期を乗り切ることができた。30人規模の会社だが、育児休暇を取るのが普通になっている。会社ではさらに社員家族の負担を減らすため、昼食を提供することを決定。お弁当作りの手間から、家族を解放した。このような取り組みを企業任せではなく、地域全体に広げていきたい。そこで桑名市では女性の体・心・社会の3つが満たされるwell-beingを目指す取り組みを開始。企業などを1つ1つ回りながら、well-beingの取り組みを具体的に進めている。

後藤 well-beingを浸透させるには、女性への配慮を一方的に押し付けるのではなく、女性も男性も含め皆が率直に話し合える環境を構築することが重要です。そして女性の健康を考えることを入口にして、だれもが健康的に生きる環境を目指す。決して、女性だけのためになるものではないわけです。

 自分の問題を「人に言うほどのことではない」「口に出すと面倒な人と思われてしまう」と考えるような傾向があって、語らない。するとそこですべてが止まってしまう。女性と男性が語り合える桑名市の取り組みっていいなと思いました。

小宮 今までの医療は病気をなおすこと(バイオ)に偏っていました。でも今立ち止まって考えなければいけないのは、心(サイコ)、社会(ソーシャル)を含めたwell-beingで人間を捉えていくこと。これが全部そろって「健康」といえるのだと思います。

後藤 女性はしんどいことを抱えているのに、自分のことは後回しにしてしまう。重い生理痛を始めとするPMSの症状があっても、女性特有のことだから仕方がないと、誰にも相談せずに一人で抱え込んでしまいます。だからこそ、困っていることを素直に言えて、周囲がそれを受け入れることができる。そういう風土を育てたいと考えています。話は変わりますが、先日大学生と話す機会があり、今の女子大生でも生理という言葉を使いにくいし、男性の前では話せないという話を聞いてびっくりしました。

 生理は恥ずかしいもの」という刷り込みがあいかわらず蔓延しているのですね。恥ずかしさというのは、とても強力な呪いなので、早く解消したいと思いました。

小宮 生理はバイタルサインで女性の健康のバロメータです。女性は生理によって恩恵を受けている部分も多く、どちらかというとポジティブなものです。恥ずかしいことではないことを、男性にもわかってもらいたいですね。

後藤 社会で当たり前と捉えられている「思い込み」が、生理痛やPMSなどの症状を、そのまま対処せず抱え込むことにつながり、MUSを発症する原因の1つになっているのかもしれませんね。

心と体のサインをひもとくことから 見えてきたこととは?

後藤 しんどいと思っても他人に言えないのが今の社会です。生理痛を始めとするPMSの症状など、しんどいと思った時にしんどい言える社会にしていけたらなと思います。言ったら迷惑がかかる。あるいは自分が否定されると思う意識を変えていきたいですね。

 改めて圧倒的なコミュニケーション不足を感じました。身近な人であれ、お医者さんであれ「誰かと話し合えるかもしれない」「理解してもらえるかもしれない」と希望を持つこと。話し始める役だけは、一歩踏み出して、引き受けてみること。「まずは私が」という勇気を持ちたいですね。結局well-beingというのは、私たちが楽な状態を目指すものだと理解しました。

國松 辛い症状が長く続いて受診に至った患者さんに、病名が欲しいのかそれとも少しでも良くなりたいかを聞くと、皆さん良くなりたいと答えます。それで、できるだけたくさんお話をして、患者さん自身が自分の状況を整理できるようにする。すると症状がでるようなことを患者さんがしなくなる。そのことを確認できたと思います。

小宮 MUSやPMSは体だけの問題ではなく、社会的な環境要因を含めて解決を考えていかないといけません。生理痛や頭痛など、辛いことは辛いと言っていいのだということをしっかり発信して、医療側もそういう体制を整えていくことが大切だと感じました。