INTERVIEW わたしの#OneMoreChoice

女性が心地よく生きるための
新しい選択肢についてお話を伺いました。
いろいろな選択肢から、あなたにとっての
#OneMoreChoiceをみつけませんか?

#004

生理の話は、人生に関わること
元アスリートの伊藤華英さんが伝えたい
「月経教育」の大切さ

伊藤華英さん / 競泳元日本代表

多くの女性が「隠れ我慢」を抱えていると
いわれています。
「隠れ我慢」とは、不調を我慢して仕事や家事をして
しまうこと。ツムラが実施した調査では、
全国20~50代女性の約8割が「隠れ我慢」を抱えながら
日々過ごしていることが分かりました。
元競泳選手として、現在は「アスリート×生理」の
情報を発信する伊藤華英さんは、生理で自身の
パフォーマンスを発揮できなかった経験から、
世代を超えて知見を共有する場を提供しています。

多くの女性が「隠れ我慢」を抱えているといわれています。
「隠れ我慢」とは、不調を我慢して仕事や家事をしてしまうこと。
ツムラが実施した調査では、全国20~50代女性の約8割が「隠れ我慢」を抱えながら日々過ごしていることが分かりました。
元競泳選手として、現在は「アスリート×生理」の情報を発信する伊藤華英さんは、
生理で自身のパフォーマンスを発揮できなかった経験から、世代を超えて知見を共有する場を提供しています。

生理痛は「我慢して当たり前
思っていた

──競泳選手時代、生理が重なってパフォーマンスが
発揮できなかった
ご経験があるそうですね。

現役時代はそもそも生理の知識がまったくなくて、
いい成績をとるために
「休む」感覚がありませんでした。
生理だからと特別なことはなく、
普通にトレーニングを
していました。アスリートである以上は
練習を
し続けなければならない、と。

国際大会を前に生理をずらすため中用量ピルを処方され、
飲んでみたら体重が4〜5キロ増えて、常に
おなかが張ってしまい……
本番まであと3カ月という、
トレーニング期間として最も重要な時期でした。
ただでさえ緊張感が高まる中、体重が増えれば身体感覚も
変わるので
パフォーマンスも下がり、精神的にも影響が
出てしまったんです。

でもこれはピルが悪いのではなく、副作用のことや、
その期間が
どれくらいかなどの知識がなかったことが
問題でした。
ピルが合わないならあえてそのまま生理が
くる方を選んだかもしれないし、
他の対処ができたかも
しれない。生理にまつわる知識をもっと自分で
把握できて
いれば、大事な期間を無駄にしなかったのではないか、
と。
選択肢はいろいろあっても、自分の知識がなくて
正しい判断ができなかった
というのが、
一番の後悔ですね。

──競泳選手となると、日頃の練習も
ハードですよね。


そうですね。だから自分にとっての生理は
「結果を出したいのに、
その気持ちを邪魔するもの。
毎月くる余計なもの」でしかなかったんです。

生理や女性特有の体の機能は生きていく上で
大事なことで、将来の自分の
体に関わることだとは
気付いていませんでした。生理の症状として月経過多や
月経困難症が起きたら大事に至るという知識も、
まったくなかった。

──厳しい練習で無月経になる人も少なくは
なさそうです。


アスリートは特に、生理の知識の差があると思います。
世界的な大舞台に
人生を懸けて、今の試合結果がよければ
いいという選手もいます。
無月経でもあまり気にせず、
医療機関で症状を確かめることまでは
しない人も。
でも、いくら人生を懸けても、その後も生活は
続いて
いきます。引退後に「あの時、病院に行っておけば
よかった」と悩んでいる
元アスリートは
とても多いですし、30歳過ぎても婦人科に
行ったことが
ない、妊娠しなければ行く所じゃないと思っている人も
たくさんいます。

今スポーツを指導している現場の方からは、
そうした認識を変えるために
どうすればいいのか、
という相談は多くありますね。
私自身、元アスリートと
いう当事者としても、
そうした考えの齟齬(そご)を
変えていきたいんです。

10代の教育から変える必要がある

──まさに伊藤さんは、女性アスリートの生理の課題
に対して
専門的知見の情報発信をする
「1252プロジェクト」を実施しています。


1252とは、52週(1年間)のうち約12週は月経とそれに
伴う体調不良が訪れることを
意味しています。スポーツの
現場で本当に悩んでいる人たちの声が吸い上げられて
いないと思い、生理について男女問わず対話する機会を
設けています。

──受講した学生からはどんなフィードバックが
ありますか?


実際に学校で授業などをすると、中学生や高校生から
「生理について、
こんなに明るくオープンに話して
いいんだ」という声が上がります。

本プログラムは男女共に受講するのですが、
最初は恥ずかしがっていた
男子学生も、最後には
「生理ってこんなに大変なんだ」と言ったり、
女子学生からも「部活内でももっと生理について
話し合える場をつくりたい」
という声が上がったり。まだ
若い世代なので未来のことまではイメージしづらい
かも
しれませんが、知識がインプットされることで自分の体を
大事にしようという
メンタリティになっていきます。
話せる場所があるだけで全然違いますよね。

──そうしたプロジェクトを介して、
新たに気付いたことはありますか?


やはり10代からの教育が大事だなと、改めて思いますね。
身体的な差異を含めた
性差について学ぶ機会が少な過ぎる
と思います。生理=女性だけの話題と
思っている男性も
多く、彼らからすると、理解は示したいと思いつつ
まだまだ
介入しづらい話題です。
でも、当事者だけでは解決できないことも多い。生理の
話だからといって
女性たちだけが嘆いていては前向きな
解決につながりません。
みんなで最善の道を
探るためにも、男女共に性差を学び、
互いの体の違いを理解することが大切だと
思います。
そのための月経教育であると思って、授業をしています。

あとは先生や大人たちが正しい知識を持って若い世代と
接することも
大切ですよね。特に部活などで、先生と
生徒の間でまだまだ生理に関して
コミュニケーションが
難しい場面もあります。例えば間接的にコンディションを
伝えられるような仕組みを作ったり、対話の機会を
設けたりするようになれると
いいですよね。

また、アスリートに限らず、
10代からの生理をはじめとした性教育は
とても大切です。

多様な価値観を認めるために
「自分の幸せ」を知る

──アスリートだけでなく、多くの女性が
自分自身の体調に
もっと自覚的にならないと
いけませんね。


「頑張り過ぎているから休もう、リフレッシュしよう」
と言っても、
それができるかどうかは本人のスキル
なんですよね。

多くの人は、休めなかったり我慢してしまったりする
ことを「こういう性格
だから」と言ってしまいがち。
でも、そういう発想は後天的に身に付いて
しまっている
場合もあります。もっとリラックスできる方法はあるし、
自分のメンタリティはコントロールできるもの。
心をストレッチする感覚と
いうか。そういうことを
知る機会や場所がもっと増えてほしいな、
とも思います。

そして、多様性が尊重される時代において、一人ひとりの
価値観が重視される
ためにも、まずは自分なりの幸せな
状態を見つけられるといいですよね。
そのためにも、
小さなことから主体的な選択を重ねることが大切だと
思います。
働き方も休み方も、自分の軸を持って選択して
いく主体性を持てば、
さらなる向上心が生まれると
思います。そういう考えを軸にすれば、
思い悩むことも
減るんじゃないかな。
取材・文=川口あい 撮影=Shin Ishikawa
取材日=2021.09.06
※掲載内容は、取材時点での情報です

伊藤華英・競泳元日本代表
1985年1月18日生まれ。埼玉県出身。AB型。
2000年日本選手権に15歳で初めて出場。
競泳選手として、2001年世界選手権から女子背泳ぎ/
自由形の選手として活躍。
2008年北京オリンピック100m背泳ぎ8位、
200m背泳ぎ12位
2012年ロンドンオリンピック400mフリーリレー7位、
800mフリーリレー8位など
輝かしい成績を残して引退。
引退後はピラティス講師の資格を取得し、
水泳とピラティスの素晴らしさを伝えるのと同時に
スポーツの発展・価値向上のために活動中。
取材・文=川口あい 撮影=Shin Ishikawa
取材日=2021.09.06
※掲載内容は、取材時点での情報です

これがわたしの#OneMoreChoice

これがわたしの#OneMoreChoice

「プライオリティ(優先順位)は自分で決める」です。
情報量が多くて、
取捨選択を迫られる時代、
「自分で決める」ことの重要性が増して
いると思います。
自分にとって何が一番大事なのかを問いながら、
自分なりにプライオリティを決めて、精いっぱい
やり切る。
そのためにも、自分の体調に耳を傾けて、
体を大切にしてほしいですね。