医師インタビュー

認知症診療で、早期発見・治療が重要なカギに 〜「日々の心がけ+気になったら医師に相談」を忘れずに〜

いのくちファミリークリニック 院長 聖路加国際大学臨床教授・名城大学特任教授 シルバー総合研究所理事長 (元国立長寿医療研究センター長寿医療研修センター長)

遠藤 英俊先生

人生100年時代が現実となった今、誰もが願うのは「いつまでも元気に、自分らしく生きること」。そのカギを握るのが、「認知症をいかに防ぎ、健康な日常を守れるか」です。
「いま、世界中が認知症予防に注目し、研究も進化しています。診断や治療法は、この十年でも驚くほど進歩しています」と語るのは、認知症治療の第一人者である、いのくちファミリークリニック院長・遠藤英俊先生。
かつては「一度かかったら終わり」と恐れられていた認知症。しかし今では、予防や早期治療が可能な“向き合える病気”として見直されつつあります。
今回は、長年にわたって認知症医療の最前線に立つ遠藤先生に、現場での気づきや最新の研究成果、そして私たち一人ひとりが今日からできる予防のヒントを伺いました。

今と昔ではシニアの健康度が全然違う

イギリス人医師であるクローニンの小説に感銘を受け、医師という職業に憧れを抱くようになりました。そして、これからは高齢者が激増する時代になるだろうから、その人たちを診る医師になりたいと。もともと“おじいちゃん子”で、子どもの頃からお年寄りと過ごすのが好きだったいう原体験も、老年医学を専門にした理由のひとつです。
今から40年くらい前は、65歳から高齢者で、透析やペースメーカーなどといった高度な医療は受けられませんでした。まさに“年寄り”のイメージ。でも、今は全然違う。私は71歳ですが、今もプライベートは全力で満喫しているし、クリニックを開業して間もないので、まだまだ働かないといけない(笑)。
認知症に関しても、そう。私が研修医になった頃は、「痴呆(ちほう)症」という病名で、一部には偏見があったのも事実だと思います。実際、診断もはっきりしなかったし、検査も治療もできなかった病気でした。
でも、そういう時期を経て、認知症治療は進化を遂げました。1999年にはコリンエステラーゼ阻害薬が承認され、2000年の前半には脳血流検査を見てアルツハイマー病の診断を助ける診断法も登場しました。その頃からですね、認知症は治療できる病気となり、私たちも本格的に認知症の研究をするようになりました。

認知症の一歩手前で見つけることが大事

認知症は実は病名じゃなく、症候名です。病名としては、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、血管性認知症、前頭側頭型認知症などがあります。
いずれも認知機能が低下して、生活に支障が出てくるようになるのですが、この認知機能というのは、単に記憶力だけでなく、見当識や空間認知、実行機能、言葉が出ないなど、総合的な脳の働きのことをいいます。(それぞれの用語については悩み別漢方で解説しています)
認知症の初期症状には、▼物忘れが多い、▼同じことを何度も繰り返して言う、▼仕事のミスが増えた、▼うつっぽい、といったものが挙げられます。そしてもう一つ見逃してはいけない初期症状が、▼怒りっぽくなってきた、です。実は、すぐに怒るという症状も、近年では認知症になる一歩手前の症状の一つとして注目されているのです。
そして、最近では、こうした症状が出始めた状態をMCI(軽度認知障害)といって、この時点で診断して、治療を始めることが大事だということがわかってきました。これは、2023年頃から抗アミロイドベータ抗体医薬品が相次いで認められたことが大きいです。
なぜなら、認知症の約6割〜7割を占めるアルツハイマー病は、脳にアミロイドベータというタンパク質が溜まることで症状が現れるのですが、これらの薬は、このアミロイドベータを直接的に減らすことができるものだからです。

認知症の初期症状に心当たりはありませんか?

したがって、これからは認知症を発症する前に見つけることが重要です。
今でも「年をとってきてから起こるから、認知症は病気じゃない」という人たちがいますが、そうではありません。むしろ「治療ができるフェーズに入った」という感覚です。だからこそ、皆さんにも早期発見・早期治療の大切さを知ってもらいたいと、強く思っています。
先にMCIの症状を挙げましたが、いずれにせよ、こうした症状に心当たりがあったら、お近くの認知症ドックやMCI(軽度認知障害)外来などで、相談してみることをお勧めします。かかりつけ医がいる人は、まずはそこで相談してみるといいかもしれません。今は地域に認知症の診療に詳しい認知症サポート医※という医師がいますので、そこにつなげてくれるはずです。
※認知症サポート医とは、「かかりつけ医」への助言等の支援を行うとともに、専門医療機関や地域包括支援センター等との連携役となる医師。2024年度末で全国に約1万5548人。

認知症(かもしれない)家族を受診させるコツ

家族が認知症かも?という場合はどうしたらいいか、悩まれている方も多いと思います。
先日も、とあるテレビ局の番組に出演したのですが、その際に、認知症かもしれないと周囲は感じていても本人はそれを認めず、最終的に介護保険の認定を受けるまで7年かかったというケースを紹介していました。さすがにこれは極端ですが、本人が認知症を認めないために介護認定が遅れるというケースは多く、平均で1.5年くらいかかるそうです。
しかし、繰り返しになりますが、今は早期発見・早期治療ができる時代。早めに受診することで早期の治療が可能です。認知症を疑っているご家族がいたら、当人に「ちょっと病院に行ってみない?」などと語りかけて、受診を促されてもいいかもしれません。
認知症に詳しい医師であれば、不安に思う患者さんに寄り添いつつ、問診や検査結果に基づいて、認知機能の低下やBPSD(認知症の行動・心理症状)などについて医学的な助言・提案をしてくれるでしょう。
それから認知症のご家族への接し方として大事なのは、「絶対に否定しない」ということ。よく昔話をすると思いますが、それは認知症のケアの1つである回想法に通じる、とても大事なコミュニケーションです。同じ話を繰り返しても「前に聞いた」「聞き飽きた」と反論せず、「へぇ、そうなの」と肯定的に聞いてあげてください。大事にしている写真の説明をしてもらうのもいいと思います。

認知症の「行動・心理症状」に漢方薬

では、中等度以降になるとどんな症状が出てくるかというと、先に挙げたような症状の程度が重くなることに加え、徘徊、暴言、不安、抑うつといった症状も出てくるようになります。それらはBPSD(認知症の行動・心理症状)といって、認知障害とは別に二次的に現れる症状です。
実はこの BPSDで見られるイライラや、神経のたかぶりなどの症状の改善に使われるのが、抑肝散(よくかんさん)という漢方薬です。最近では、レビー小体型認知症やレム睡眠行動障害(夜間にねぼけのような症状が出る)で見られる行動・心理症状にも抑肝散が有効であることがわかってきました。
私自身、抑肝散の有効性にはとても期待していますし、中等度以降では漢方薬を西洋薬の認知症治療薬と併せて使うことで、総合的に認知症患者さんを診ていくのが大事なポイントになると思っています。
また、この漢方薬は認知症に限らず、高齢になると起こってくるさまざまな症状を軽減させるのに、役立っています。西洋薬で手が届かないところをカバーするという感じで、当院では2~3割の患者さんに漢方薬を処方しています。具体的には、足がつる、耳鳴り・めまい、便秘、むくみ、頻尿などです。患者さんの体質や症状に合わせて使い分けています。

歩く、話す…世界的にも注目される認知症予防

私が研究で力を入れていることの一つに「予防」があります。
実は予防に関しては世界的にも注目していて(世界的に認知症患者が激増する背景があるため)、WHO(世界保健機関)は有名な科学雑誌である『ランセット』に報告された研究結果を踏まえて、12の対策を推奨しています。
そのなかで私が注目していることの1つは、有酸素運動です。まずは歩くこと。できれば早歩きのほうがいいですね。デュアルタスクといって、運動をしながら知的活動をする(例:ウォーキングしながら計算やしりとりをする)こともお勧めです。
人と話すことも大事です。最近は「1日300分(5時間)しゃべると認知症になりにくい」というデータがあるほどです。5時間しゃべるのはさすがに難しいですが、家にとどまってテレビばかり見ていないで、とにかく外に出かけましょう。
食事でいうと、一般的には野菜と海藻類、豆類、乳製品は認知症予防になるとされています。私の研究では、カレーライスやシークヮーサーがいいことが明らかになりました。カレーは週に1回食べるようにしていますし、濃縮したシークヮーサーをソーダで割ったものも2日に1回、飲むようにしています。

クリニックには全国から患者が受診

最後に少し当院の話をしましょう。
クリニックを始めて5年目になり、一般内科・老年内科を標榜していますが、8~9割が認知症の患者さんです。初期と進行している人が半々ですね。患者さんの多くは名古屋市の北、あるいは尾張地方からですが、メディアやYouTubeをきっかけに全国から患者さんが来られます。
診療で意識しているのは、“ナラティブ・ベイスト・メディスン(Narrative Based Medicine: NBM)”です。科学的根拠(エビデンス)も大事ですが、むしろ会話の中から悩みや困りごと、生活歴といったことをお聞きし、そこから見てとれる人間性や性格などを踏まえて治療を進めます。
診察して薬を出すだけなら、どの医師でも行えます。それをわざわざ会いに来てくれるというのは、それだけ信頼されているからなのかもしれません。そうした患者さんの期待に応えられるよう、信頼関係はこれからも大事にしていきたいと思っています。

遠藤先生から漢方ビューの読者にメッセージ

人生を豊かに過ごすためにもっとも大事なことは、目標を作ること。先に予防の話をしましたが、「希望や夢があるから認知症にもならないようにするし、寝たきりも防ぐ!」という心構えがなければ、運動も社会性を保つ(社会参加)といった対策も長続きしません。
もう一つ、これからの人生に必要になるのは「かかりつけ医」です。今は大きな病院に直接行こうとすると余計に費用が必要ですが、かかりつけ医からの紹介であればもっと安くてすみます。年を重ねるとそれだけ細々した症状が出てくるので、身近なことを相談できて、何か問題があったら専門の病院につないでくれるかかりつけ医がいると安心です。
合わせて、地域の情報を知っておくことも大事。例えば心臓の病気ならA病院、脳の病気ならB病院というように、専門的に診てもらえる医療機関を見つけておくことです。
そして認知症に関しては、繰り返しますが、心当たりがあったら早めに相談を。認知症になる前のMCIや早期の認知症は治療できるという意識を持っていてほしいです。

医師プロフィール

いのくちファミリークリニック 院長
聖路加国際大学臨床教授・名城大学特任教授
シルバー総合研究所理事長
(元国立長寿医療研究センター長寿医療研修センター長)

遠藤 英俊先生

1982年滋賀医科大学卒業。名古屋大学老年科で医学博士取得後、市立中津川総合病院を経て、国立長寿医療研究センター(旧・中部病院)老年内科勤務、内科総合診療部長等歴任。
認知症や医療介護保険制度等を専門とし、著書出版多数。国や地域の制度・施策にも関わり深く、NHKクローズアップ現代などTV出演も多数。ロシアやタイなど海外での認知症関連の研修や、看護師の特定行為研修も担う。
2021年3月いのくちファミリークリニックを開院。

Keywords

  • 認知症
  • 早期発見
  • BPSD
  • 抑肝散
  • 漢方薬
こちらから漢方情報アプリ「Kampo view Books」をダウンロードをいただけます。 Kampo view Books App Store Kampo view Books Google Play こちらから漢方情報アプリ「Kampo view Books」をダウンロードをいただけます。 Kampo view Books App Store Kampo view Books Google Play