INTERVIEW わたしの#OneMoreChoice

女性が心地よく生きるための
新しい選択肢についてお話を伺いました。
いろいろな選択肢から、あなたにとっての
#OneMoreChoiceをみつけませんか?

#008

家事や育児は、素晴らしい権利
前田晃平さんが語る
男性の家庭進出のススメ

前田晃平さん / 認定NPO法人フローレンス代表室長

多くの女性が「隠れ我慢」を抱えていると
いわれています。
「隠れ我慢」とは、不調を我慢して仕事や家事をして
しまうこと。ツムラが実施した調査では、
全国20~50代女性の約8割が「隠れ我慢」を抱えながら
日々過ごしていることが分かりました。
フローレンス代表室長の前田晃平さんは、女性が直面する
育児の大変さやジェンダーギャップについて、自身も
育休を取ったことで初めて「分かった」と言います。

多くの女性が「隠れ我慢」を抱えているといわれています。
「隠れ我慢」とは、不調を我慢して仕事や家事をしてしまうこと。
ツムラが実施した調査では、全国20~50代女性の約8割が「隠れ我慢」を抱えながら日々過ごしていることが分かりました。
フローレンス代表室長の前田晃平さんは、女性が直面する育児の大変さやジェンダーギャップについて、
自身も育休を取ったことで初めて「分かった」と言います。

ジェンダーギャップ解消
鍵を握るのは「男性

──前田さんは、日本社会をより良くするためには
「パパの家庭進出が
まず必要」と訴えています。
この理由は何でしょう?

今、メディアをはじめさまざまな場所で
「女性の社会進出」
「ジェンダーギャップ」「少子化」
といった問題が論じられています。
こういった問題が
取り上げられるとき、スポットライトが当たるのは、
とにかく「女性」です。

例えば、女性の社会進出という話で挙がってくるのは、
「女性のモチベーションを高めるために研修をやろう」
「女性が働きやすい
職場づくりをしよう」といったもの。
いかに女性にもっと頑張ってもらうかと
いう方向性で
話が進むわけです。

ですが僕自身、育児休暇(以下、育休)を取って子育てに
コミットして
痛感したのは、「これは女性の問題では
ない」ということです。

僕の前職もそうでしたが、日本企業の多くは労働時間が
とても長い。
そういった職場にいながら、毎朝子どもを
保育園に送り、定時には退社して
お迎えに行くのは
至難の業です。だから子どもを持つと、キャリアの
土俵から
下りるしかない。これが、今まで多くの女性に
起こっていたことです。

定時で帰ったとしても、子育てはめちゃくちゃ
忙しいんですよ。すでに
そのような状態で
ある人(女性)に対して「もっと頑張れ」というのは
無理な話でしょう。

例えば少子化問題も、夫が家事育児をすればするほど
出生率が高まることは、
さまざまに証明されています。
鍵を握っているのは、
むしろ「男性」なんです。

――社会ではそのような認識が低いように感じます。

少し前まで「男なら長時間労働は当たり前」でした。
「大黒柱は
キャリアアップして給料を稼いで家族を
養っていかないといけない」という
意識が社会全体に
あったし、それを期待されていた。今もその延長線上に
いる人は少なくないのではないでしょうか。

僕自身も家族ができるまではそうでした。ですが今は、
パートナーと
支え合って家事育児をすることが
とても幸せな時間であることを
知っています。

本来、誰もがその素晴らしい体験をする権利を
与えられている。ですが
男性は、仕事のためにその権利を
奪われているわけです。このことに、
ほとんどの男性が
気づいていない。

酷な言い方かもしれませんが、仕事の人間はいくらでも
「替え」が
利きます。でも家族は「替え」が利かない。
むしろ家事や育児を
した経験が、男性のその後の
キャリアにとってもプラスになると
僕は思っています。
だから今、家事や育児に時間が割けていない男性は、
今一度、
家族とどうありたいか、人生をどう生きたいかに
ついて、見つめ直した方が
いいと思います。

産後の女性は満身創痍
夫が家事育児をしないでどうする

――前田さんがそのような考えに至ったのは、
ご自身が育休を
取られたことが
大きかったのですか?

圧倒的に大きかったですね。もともと社会課題に興味は
あったので、
ジェンダーギャップや育児の大変さに
ついての“情報”は知っていました。ですが
育休を取って
自分が子育てをしたとき、「知っていた」から
「分かった」に
フェーズが変わりました。

子どもは個人差が大きいので育児の大変さは家庭に
よりけりなのですが、わが家は
かなりキツくて、
夫婦 2人がフラフラになりながらやっていました。
娘が
もう全然寝てくれなくて(笑)。

産後、女性の体は満身創痍(そうい)で、
ホルモンバランスも崩れて
情緒不安定にもなります。
それなのに、俗に言う「ワンオペ」で家事育児を
するなんて、正気の沙汰じゃないと思いました。
出産による身体へのダメージが
ない方が、家事育児を
しないでどうするんだ、と。

――産後の女性の状態については、
どのように理解を
深めていったのですか?

とにかく勉強しました。というのも、産前は夫婦仲が
良好だったのに、
産後になって急に悪化したんです。
僕自身は何も変わっていないのに、
妻はいつも怒って
いて。

あまりにもおかしいので、「出産で女性に何が
起きたんだ?」と思って
調べ始めたんです。そうしたら
「産後は全治数か月の交通事故に遭ったのと
同じ」
などとあってビックリしました。

――女性の8割が「隠れ我慢」をしているという、
この数字をどう受け止められましたか?

驚きました。でも一方で、納得する自分もいました。

育休中のあるとき、娘と公園に行って砂場で
遊んでいたんです。そのとき隣で
遊んでいた子どもたちの
お母さんグループの会話が聞こえてきた。子どもの
習い事について話をしていたのですが、よくよく話を
聞いてみると、子どもに
習い事をさせることによって、
どうにか自分の時間を捻出しようと
していたんです。

さらに旦那さんについて、「1週間に1回、子どもが
起きている間に
帰ってきたらいい方だよね」などと
言っている。普段、女性が1人で
どれほど
忙しい状況なのかということです。

わが家は、育休も取って夫婦で育児をしているし、実家も
近いので両親の力を
借りることもできる。それでも、
こんなにキツい。でも、今男性の
育休取得率は13%ほど
なので、お母さんの85%以上は日常的に
ワンオペを
しています。そりゃあ多くの女性は我慢しているよね、
と思いました。

――前田さんはパートナーが
「隠れ我慢」をしていると感じることは
ありますか?

……今はないかな。わが家は意識的に言いたいことを
その場で
言い合うようにしているので。

でも最初は違いました。子どもが生まれた直後、僕は
家事育児を
「やっている気」になっていた。「世の男性は
育休も取らず、好きなだけ
働いている。だけど僕は育休も
取って、復帰後も定時で帰ってきている。
これ以上何を
求めるの?」という感じで。

それで一度、妻の怒りが大爆発しました。「あなたが
頑張って働いていると
思っていたから
我慢していたけれど、もう言ってやる!」と。
フタを
開けたら、僕の視界から見えていなかった妻のタスクや
悩みなどが
山のようにあったんです。

この一件から、普段からきちんと話し合いをしなくては
いけないことを
学びました。

だからわが家は、ルーティンとして意地でも夫婦の時間を
確保するように
しています。夫婦ともリモートワークの
時は2人で必ずランチに行くとか、
それができない時は
寝る前に時間を取るとか。

だから、「隠れ我慢」はないかなと思っています。
ケンカは絶えないですけど(笑)。

全体の3割が変われば
カルチャーは変わる

――「女性の8割が~」という言い方をすると、時に
男女の分断や
互いの反発を招くことがあります。共に
協力して解決するには、
どうすればいいのでしょう?

人類の半分は女性です。その女性の8割ということは、
全人類の40%もの人が
問題を抱えていることになります。
男女関係なく、困っている人が
大勢いるのなら、それを
解決するのが社会にとっていいことだし、そちらの方が
みんないいでしょ?とシンプルに思います。

でも僕はさほど悲観的に見ていなくて。なぜなら、知人の
男性陣を見ても、
知らないから招いている誤解だったり
偏見だったりがある。面と向かって
話すことが、
相互理解の糸口になると信じています。

だから、女性のみなさんはぜひ我慢を隠さないで
ほしいなと思います。

ほとんどの男性は、女性の我慢に気づいていないんです。
僕も妻から
「こんなに私が我慢してるのに、見てて
分からないの!?」と言われたのですが、
スミマセン、
分からなかったです……(笑)。

もちろん「隠れ我慢」になるゆえんはいろいろあると
思います。周りに心配を
かけたくない、負担に
思われたくない、など。「我慢しないで言って」と
言われても「それができたら苦労しないよ」と
言われるかもしれない。

それでも、僕が社会問題の解決を仕事にしているから
特に思うのですが、
まずは表に出してほしい。

日本全体で言えば、特に20〜30代の男性は家事育児への
意欲が高いし、
制度的にも男性に育児をさせる動きが
加速しています。組織でもなんでも、
全体の3割くらいが
変わればカルチャーは一気に変わる。

だからそう遠くない将来、日本社会も男性全体の意識も
ガラッと
変わるんじゃないかな。たとえ自分の
パートナーが育休を取っていなかったり、
今家事育児を
していなかったとしても。

――前田さんが家事育児をすることでパートナーの
愛情曲線は上向いたと
思いますか?

そう思いたいですね(笑)。普段から私は早く家に
帰りたいと思うし、
妻もそうだと言ってくれているので、
それが全てを物語っているのでは
ないでしょうか。

取材・編集=野村高文 文=藤橋絵美子 撮影=Shin Ishikawa
取材日=2022.01.20
※掲載内容は、取材時点での情報です

前田晃平
認定NPO法人フローレンス代表室長
1983年、東京都出身。
慶應義塾大学総合政策学部中退。
リクルートホールディングス新規事業開発室
プロダクトマネージャーを経て、
現在、フローレンスでマーケティング、
事業開発に従事。
政府・行政に政策を提案、実現する
ソーシャルアクションを行う。
妻と娘と三人暮らし。著書に、
『パパの家庭進出がニッポンを変えるのだ!』
(光文社)。

取材・編集=野村高文 文=藤橋絵美子 
撮影=Shin Ishikawa
取材日=2022.01.20
※掲載内容は、取材時点での情報です

これがわたしの#OneMoreChoice

これがわたしの#OneMoreChoice

「夫婦で大黒柱」

最初は僕1人で大黒柱を担おうとしました。でも
残念ながら、その器では
なかった(笑)。いまは夫婦で
大黒柱をやっています。だから男性の
皆さんには、
「1人で担わなくてもいいよ」と言いたい。
また収入面だけでなく、家事育児を担っている人も家庭の
大黒柱です。育児は
素晴らしいこととはいえ、1人で
担うとやっぱりつらい。家族で支え合って、
分け合って
いくほうがずっといい。
一人一人が仕事、家族、人生を見つめ直して、
「本当にありたい姿」を
実現させていってほしいと
思います。人生は長いですからね。