INTERVIEW わたしの#OneMoreChoice

女性が心地よく生きるための
新しい選択肢についてお話を伺いました。
いろいろな選択肢から、あなたにとっての
#OneMoreChoiceをみつけませんか?

#011(前編)

女性の健康課題、
労働損失は約4,900億円?
経産省がフェムテックを推進する理由

川村 美穂さん /
経済産業省経済産業政策局経済社会政策室長

多くの女性が「隠れ我慢」を抱えていると
いわれています。
「隠れ我慢」とは、
不調を我慢して仕事や家事をしてしまうこと。
ツムラが実施した調査では、
全国20~50代女性の約8割が「隠れ我慢」を抱えながら
日々過ごしていることが分かりました。
今回、#OneMoreChoice プロジェクトでは
経済産業省(以下、経産省)の経済社会政策室にて
「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」を
推進する川村美穂さん、間瀬菜生子さんにインタビュー。
前編では、企業の成長や日本経済の発展にも大きな影響を
与える「女性のライフステージの変化」と
健康課題について、川村さんに語っていただきました。

多くの女性が「隠れ我慢」を抱えているといわれています。
「隠れ我慢」とは、不調を我慢して仕事や家事をしてしまうこと。
ツムラが実施した調査では、全国20~50代女性の約8割が「隠れ我慢」を抱えながら日々過ごしていることが分かりました。
今回、#OneMoreChoice プロジェクトでは経済産業省(以下、経産省)の経済社会政策室にて「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」を推進する川村美穂さん、間瀬菜生子さんにインタビュー。
前編では、企業の成長や日本経済の発展にも大きな影響を与える「女性のライフステージの変化」と健康課題について、川村さんに語っていただきました。

女性の健康課題による労働損失は
年間約4,900億円にも

――経産省がフェムテック推進活動をスタートした
背景について教えてください。

私たちは経産省の経済社会政策室で、
企業のダイバーシティ経営を推進しています。

多様な人材が活躍することでイノベーションが生まれ、
それが企業の持続的な価値を創造し、
ひいては日本経済の成長にも
つながります。
そのような考えで、さまざまな取り組みを推進する中、
女性の健康課題による離職が、企業経営においても
大きな課題であると分かりました。

例えば、妊娠・出産における病院通いが大変だったり、
不妊治療と仕事の両立
が難しかったり。
健康課題による「望まぬ退職・転職」は
いまだにたくさんあります。それらをなんとか防ぎたく、
フェムテックを活用して解決できないかと考えたのが、
この事業の発端になります。

――確かに、女性の健康課題に伴う離脱や離職は、
企業の
中長期的な成長にもダイレクトに通じる問題ですね。

はい。女性の健康課題は、ある一時期だけ取り組めば
いいわけではなく、
生理やPMS、妊娠・出産、不妊治療、
女性特有の疾患、更年期症状まで、
ライフステージごとに
課題があります。これらを個人のものとしてだけで
捉えるのではなく、組織、社会の課題として解決策に
取り組むべきだと
考えています。

――社会規模としても、
こうした女性の健康課題は
大きな影響がある、と。

はい。フェムテック補助金事業を立ち上げるに当たり
経産省で実態調査を
したのですが、
生理痛やPMSといった月経に伴う女性特有の体調不良に
よる
欠勤や生産性の低下で、1年間で約4,900億円もの
労働損失が出ている
というデータがありました。

また、生理だけでなく、不妊治療や更年期などの分野で
女性の健康課題が
軽減され、離職をする人が減ったら、
どれくらいの経済的なインパクトがあるか。
給与相当額を計算してみると、
2025年時点で
年間約2兆円になるという結果が出ました。
あくまで仮定の推計ではありますが、
それなりの経済的なインパクト、
損失が発生していると考えていいでしょう。

健康課題というと個人の問題と捉えられがちですが、
そうではない。
組織として、社会として
向き合うべき課題なんです。

その解決策の一手として
「フェムテック等サポート
サービス実証事業費補助金」を推進しています。

――具体的にはどういった取り組み内容に
なるのでしょうか?

フェムテック事業者や、フェムテックを福利厚生などで
導入したい企業や
自治体、医療機関などの
ステークホルダーがチームで参加し、
各サービスを使う中での成果や課題を出していきます。

例えばフェムテックサービスを企業の福利厚生で
使ってもらいたい事業者、
それをテスト導入したい企業と
そこの従業員といった方々に
チームになって
取り組んでもらい、その実証事業に対して経産省から
補助金が最大500万円まで出されます。

21年度から開始し、全国で20事業の実証を行いました。
22年度は19事業を新たに選定し、進めています。

ある事業では、働く女性の健康課題についてオンライン
相談窓口の
プラットフォームを開設し、実際に活用して
もらうことで、
成果や課題を確認しました。

また、医療的な例でいうと、北海道での実証ですが、
産婦人科のある
病院まで車で片道30分~1時間かけて
通院している地域の妊婦を対象に
行いました。
助産師がその地域の一般病院や妊婦の自宅に出張して、
胎児の状態を計測する機器を使ってデータをとり、
それを遠隔にいる産婦人科医に送信して状態を確認して
もらう
というものです。妊婦の通院負担の軽減や、
事前スクリーニングによって、
予期せぬリスクの高い
緊急出産の回避といった効果が見込まれ、
地方において出産をする女性の負担軽減が
期待されています。

「女性だけを優遇するのか」の声に、
どう答えるべきか?

――ライフステージごとで女性の健康課題も
変わってきますが、
主にどういった分野に
注目していますか?

生理やPMSはもちろん、妊娠、出産、更年期など
ステージごとに変わりますし、
それぞれ仕事への影響も違います。

例えば不妊治療をしている女性のうち、
仕事と両立できずに離職してしまう
女性の割合は
23%にも上り、10%の方が正規から非正規雇用といった
形に
就労形態を変えています。

更年期の場合は年代的に責任のあるポストを
任されている方も多いので、
自分の健康が不安で
昇進の打診を断る方も少なくはないです。

前述した生理やPMSの影響による生産性低下も
そうですし、
年齢ごとに違う状況で起こるそれぞれの
課題を知り、
人生のステージに寄り添った支援を
していく必要があると、強く思っています。

――健康課題による望まぬ離職や、
働きづらさを解消するためにも、
企業側の理解も促していく必要がありそうです。

そうですね。例えばフェムテックを福利厚生に使いたい
企業の方から、
導入したいけれど「女性だけを
優遇するのか」という声が上がると聞きます。
でも、そういうことではないんですよね。

高度経済成長期のようにずっと右肩上がりで成長して、
定型化された働きをすれば先の姿がある程度想像できた
時代とは違い、
現代は非常に不透明な時代です。
デジタル化社会では
「良いものを大量につくって
安く売る」旧来的ビジネスモデルではなく、
創造的なアイデアが付加価値の源泉となり、
革新的なイノベーションが
大きなビジネスを
生み出します。そういう状況では、多様な方々の視点、
活躍が求められ、その力を生かすことが企業の競争力の
基盤、
成長につながります。

つまり女性が活躍すれば企業のパフォーマンスも
上がりますし、
実際にそういったデータもあります。
女性が働きやすい環境を整備する
ことは、
決して女性を特別扱いすることではなく、
「企業自体の成長戦略」
なんだということを、
経営層や管理職層にご理解いただきたいです。
あなたがこれらを理解することは、
あなたの企業の成長に貢献することなんですよ、と。

そして、女性に能力を発揮して活躍してもらうためにも、
まずは健康課題の解決に目を向けていただきたい。
そういったメッセージを発信しています。

――企業側は、具体的にどういった施策が
有効でしょうか?
制度をつくっても、
使える環境やカルチャーが醸成されないと
難しいといった声も聞きます。

例えば生理休暇などは多くの日本企業も導入しています。
更年期休暇や不妊治療のための特別休暇、
福利厚生でのフェムテック導入など、
まずはいろんな制度をしっかり整え、
健康課題の解決を
推進しようとする企業は増えつつある印象です。

ただ、いろんな制度を取り入れても、
最終的にはそれを使える土壌があるかどうか。
そこが大きな問題なんですよね。
休んでも嫌な顔をされない環境づくりの方が、
今の日本の現状では重要な気がしています。
その点をクリアするためにも、
健康課題に対する啓発や
研修を実施して、あらゆる層にしっかりと
ご理解を
いただきたいですね。私たち経産省も、
フェムテック事業を介して
そうしたサポートも
推進していきたいと思っています。

川村美穂(かわむら みほ)
経済産業省経済産業政策局経済社会政策室長
入省後、海外広報、通商白書の企画・執筆、
エネルギー自由化の制度構築や
外国人材の我が国への受入れ促進等を担当。
2020年11月より現職にて、
日本企業におけるダイバーシティ経営や
経済分野での
女性活躍の推進に取り組む。

取材・文=川口あい 撮影=Shin Ishikawa
取材日=2022.07.14
※掲載内容は、取材時点での情報です

取材・文=川口あい 撮影=Shin Ishikawa
取材日=2022.07.14
※掲載内容は、取材時点での情報です

これがわたしの#OneMoreChoice

これがわたしの#OneMoreChoice

――最後に、川村さんの「私の#OneMoreChoice」、
自分なりの選択肢について教えてください。

「自分らしく、心地よく!」です。

いろんな価値観が人それぞれあっていい、
そんな社会が生きやすいですよね。
そのためにもまずは「自分らしく」あること。
自分らしく生きるために、
フェムテックなどのツールを
利用して、どうすれば自分が心地よくいられるか、
自分らしく生きられるか。
そういったことを自然に考えて、
手段として手に入れてもらいたいと思います。

私自身にも、そしてこれからの日本をつくっていく
皆さんに贈りたい言葉です。