2026.02.09

養生のすすめ

入浴

入浴と睡眠による「疲労回復」のメカニズム(後編)

前回のコラムでは、お風呂に入ると「疲れが取れる」と感じる理由についてお話ししました。入浴によって入眠がスムーズになり、その後の睡眠の質が高まることで、成長ホルモンが多く分泌され、細胞の修復・再生が促される。これが、私たちが疲労回復を実感する大きな理由でした。
今回はその続編として、入浴と睡眠がどのように連携し、疲労回復につながっていくのかを、もう一歩踏み込んで解説していきます。

深い眠りで分泌される「成長ホルモン」

前回お伝えしたとおり、入浴によって深部体温は一時的に上昇し、その後スムーズに低下します。この体温変化が入眠を促し、入眠直後の睡眠を深くすることにつながります。
特に重要なのが、入眠直後に現れる深いノンレム睡眠です。このタイミングで、「成長ホルモン」は最も多く分泌されます。睡眠の後半にもノンレム睡眠は現れますが、成長ホルモンの分泌量は決して多くありません。
つまり、疲労回復の鍵は「睡眠時間の長さ」だけではなく、入眠直後にどれだけ深い眠りを得られるかにあるのです。

成長ホルモンは“修復の司令塔”

成長ホルモンと聞くと、「骨を伸ばすホルモン」というイメージを持つ方が多いかもしれません。しかし、その役割はそれだけではありません。
私たちが食事から摂取したタンパク質は、体内で一度「アミノ酸」に分解され、吸収されます。このアミノ酸を材料として、筋肉・皮膚・内臓・血管などの細胞組織を新しくつくり、修復するよう指示を出すのが、成長ホルモンの重要な役割です。
言い換えれば、成長ホルモンは体の再生を司る司令塔。疲労回復には、欠かすことのできない存在なのです。

素材がなければ修復はできない

ただし、どれほど質の良い睡眠をとり、成長ホルモンが十分に分泌されたとしても、修復の材料となるアミノ酸が体内に行き届いていなければ、細胞の修復は進みません。
司令塔が指示を出しても、工事に必要な資材が届かなければ、修復作業は始められないのです。
アミノ酸は、食事や飲料から摂取したタンパク質が胃で分解され、腸で吸収された後、血液によって全身へと運ばれます。つまり、血流の良し悪しが、修復効率を左右すると言えます。

入浴が「物流」を支える理由

お風呂に入ると、温熱作用によって血管が柔らかく広がり、さらに水圧によって心拍数が適度に高まります。この二つの作用が重なり合うことで、全身の血液循環は大きく改善されます。
その結果、修復に必要なアミノ酸が体のすみずみまで運ばれやすくなります。入浴は、成長ホルモンという司令塔が指示を出すだけでなく、必要な素材を確実に届けるための「物流システム」を整える役割も果たしているのです。
残念ながら、シャワーだけでは温熱作用も水圧作用も弱く、全身の巡りを十分に高めることは難しいと考えられます。

疲労回復に必要な「二つの歯車」

ここまで見てきたように、入浴によって
•入眠直後の深いノンレム睡眠が得られ、成長ホルモンが分泌される
•血流が改善し、細胞修復に必要なアミノ酸が全身に届けられる
という二つの働きが同時に整います。
司令塔を派遣し、必要な素材を滞りなく届ける——。人材派遣と物流の両方が円滑に機能してこそ、傷んだ細胞は効率よく修復されます。この二つの歯車がかみ合ったとき、私たちは本当の意味での「疲労回復」を得ることができるのです。

入浴と睡眠は「セット」で考える

もちろん、真の疲労回復には、バランスの取れた食事による十分な栄養摂取も欠かせません。
これまで見てきたように、入浴と睡眠は切り離して考えるものではなく、一つの連続した流れとして捉えることが大切です。入浴は単に汚れを落とす時間ではなく、血流を整え、細胞を活性化し、深い眠りへと導くための「準備の時間」なのです。
お風呂は、ほとんどのご家庭にある身近なセルフケアの場です。今日からぜひ、お風呂の時間を「明日をつくるためのセルフケア」と捉え直してみてください。
湯船にゆっくりと浸かり、体の巡りを整えてから眠りにつく。その一連の習慣が、数年後のあなたの健やかさを支える大きな土台となるはずです。