2026.03.26

養生のすすめ

入浴

一日の疲れを癒すお風呂(前編)

現代人を悩ませる「メンタル疲労」

一晩眠っても疲れが取れない、常に頭のどこかが重い。もしあなたがそう感じているなら、それは単なる肉体疲労ではなく、脳と神経が悲鳴を上げている「メンタル疲労」かもしれません。
現代社会、かつてないほど情報が氾濫し、その処理には相当量の労力をつかいます。
仕事もマルチタスク化し、スマホやタブレットなどデジタルデバイスには絶え間なく通知が入ります。そして人間関係でもストレスが多く、情報処理能力を限界まで追い込み、自律神経系や神経伝達物質のバランスを静かに、しかし確実に崩していきます。

脳の過覚醒をリセットする「入浴」

精神的な消耗が蓄積すると、私たちの身体は常に「戦うか逃げるか」といった交感神経が優位な状態になってしまいます。いわば、車のアクセルが踏みっぱなしで、エンジンが熱を帯びたまま冷めない状態です。この「脳の過覚醒」をリセットし、真の休息へと導くためには、単に横になるだけでは不十分です。そこで、効果的なのが「入浴」です。
お風呂に浸かると身体が温まります。その結果、お湯の温度や感じ方に応じて、交感神経と副交感神経のスイッチが切り替わり、生きていく上で必要不可欠な自律神経のバランスを整えてくれます。
人間は、本来、日の出と共に活動し、夜は休息するという生活リズムを持っています。日中は活動に伴い交感神経が優位になる時間が長くなります。一方、夜は副交感神経が優位となり、休息します。しかし、メンタル疲労に陥ってしまうと、夜になっても交感神経のスイッチが切れず、優位なままとなってしまい、自律神経のバランスが保てなくなってしまうのです。

心と身体を整える理想の入浴法

そんな時、このリズムを引き戻すのが「お湯に浸かる」という行為です。おすすめしたいのが、「38〜40℃の心地良いお湯に15分程度じっくりと浸かる」こと。ポイントとなるのが温度設定です。熱いお湯、例えば42℃以上につかると交感神経を刺激してしまいます。血管には交感神経しか繋がっていないため、ストレスを感じさせる熱い湯につかってしまうと戦闘状態に入ったと判断し、血管も収縮します。そうならないよう「心地よいと感じる」温度のお湯につかることが大切です。心地よいと感じる状態は、副交感神経が優位になっているという証です。
実際に入浴すると温熱効果によって身体が温まるのですが、温まると心地よさを感じる脳の眼窩前頭皮質中腹部(がんかぜんとうひしつちゅうふくぶ)、膝前部前帯状皮質(しつぜんぶぜんたいじょうひしつ)、腹側線条体(ふくそくせんじょうたい)という領域を活性化させます。1)

浮力がもたらす深いリラックス

また、お風呂に浸かると感じられる「浮力」も見逃せません。
お湯に浸かると、アルキメデスの原理と言われる浮力が働き、お湯から出ている部分の重さのみを感じます。そして、浮力が働くと筋肉は弛緩し、関節負荷もなくなります。筋肉のコリがほぐれると同時に、心理的なこわばりも解けていきます。
そこでお勧めしたいのが、あえて「浮力を感じる」ということです。方法はお風呂につかり両手を伸ばし、「ふ〜」と息を吐きながら力を抜きます。すると両手がお湯に浮いているのを感じられるでしょう。気がつくと肩の力も抜けて気分もリラックスしてきます。両腕が浮いていると感じられる、すなわち力が抜けているという証です。それが、心の休息につながります。

お風呂を“心のトリートメント”に

入浴は、単に身体を洗うためだけの時間ではありません。
それは、外界からの刺激を遮断し、自分自身の内面と対話する「マインドフル」な時間でもあります。忙しい毎日ですが、1日24時間を分に換算すると1,440分もあります。そのうちの15分お湯に浸かるだけで心の健やかさが保て、翌日のパフォーマンスがあがります。38〜40℃の心地よいお湯に15分つかる。
このシンプルな行為を習慣化することでメンタル疲労がリセットでき、明日を生きるためのエネルギーを蓄えてくれます。
お風呂を「ただのルーチン」から「心のためのトリートメント」へと変えてみませんか。

参考文献

(1)Janssen C. W.,Lowry C. A.,Mehl M. R.,Allen J. J.,Kelly K. L.,Gartner D. E.,Medrano A.,Begay T. K.,Rentscher K.,White J. J.,Fridman A.,Roberts L. J.,Robbins M. L.,Hanusch K. U.,Cole S. P.,Raison C. L. (2016) Whole-body hyperthermia for the treatment of major depressive disorder: A randomized clinical trial. JAMA Psychiatry, 73(8), 789-795.