2026.02.26

養生のすすめ

入浴

入浴による背中にきびのケアについて(前編)

厳しい寒さが和らぎ、柔らかな日差しに春の訪れを感じる季節となると、ファッションも軽やかになり、店頭には背中の開いたデザインや透け感のある洋服が並び始めています。そんな新しい服を試着した際、鏡に映る自分の「背中」を見て、ポツポツとした赤みやザラつきにハッとしたことはありませんか?この正体は、背中のニキビや毛包炎かもしれません。春のファッションを気兼ねなく楽しむために、今こそ知っておきたいのが「入浴による背中ケア」です。

健やかな肌を守る鍵「皮膚常在菌のバランス」

私たちの肌には、目には見えませんが約1兆個以上もの常在菌が住んでいます。これは「皮膚常在菌叢(ひふじょうざいきんそう)」、あるいは肌のマイクロバイオームと呼ばれます。肌の表面には、
・肌を守る表皮ブドウ球菌、
・増えすぎるとニキビの原因になるアクネ菌、
・皮脂を好み、増えると肌トラブルを招くマラセチア菌(カビの一種である)
など、多くの菌が絶妙なバランスを保ち共存しています。もちろん、それは背中も例外ではありません。以前は、健康で美しい肌を保つには悪影響を及ぼす菌を取り除くのが良いと考えられていましたが、近年では、肌にいる「菌の多様性」を保つことの大切さが健やかな肌を守る鍵として注目されるようになってきました。まずは、背中のトラブルに影響する菌の正体を知ることから話を始めましょう。

ニキビを防ぐ見えない守り手

背中に存在するアクネ菌は、普段は毛穴の奥深くに潜んでいます。ところが、外へ漏れ出てくると炎症を起こしてニキビをつくり出します。一方で、表皮ブドウ球菌は「バクテリオシン」という抗菌物質を放出して、アクネ菌が外まで溢れ出してこないよう抑え込んでいます。いわば、アクネ菌が暴走しないように見張っている警察官のような役割です。また、肌を弱酸性に保ち、しっとりとした潤いをキープする表皮ブドウ球菌は、まさに美肌を守る要といえる存在です。


一方で、カビの一種であるマラセチア菌は、普段は弱酸性の環境で汗腺の周りに生息しています。しかし、・強い洗浄・過度な摩擦・ストレスなど
何らかの理由で表皮ブドウ球菌の働きが弱まり、肌が弱アルカリ性に傾くと一気に増殖を始めます。増殖した菌は皮膚を刺激し、赤みやかゆみの原因を作ってしまうのです。

背中ケアの基本は、「菌を排除しすぎない」こと

健康な肌では、これらの菌が役割を分担して平和に暮らしていますが、間違った洗浄、誤ったスキンケアでバランスが崩れると、アクネ菌やマラセチア菌が異常に増え、ニキビや肌荒れといったトラブルを引き起こしてしまいます。背中をきれいに保つために大切なのは、原因菌をただ排除することではなく、常在菌がバランスよく共生できる環境を整えてあげること。そのための心強い味方が、毎日の入浴です。

背中ケアのカギは「正しく湯船に浸かること」

背中の汚れを取るにはボディソープを使い、ゴシゴシ洗ってシャワーで流せば良いと思っている方もいるかもしれません。しかし、アクネ菌は毛穴の奥で皮脂をエサにしているため、大切なのは力任せに洗うことではなく、毛穴に詰まった皮脂を正しく取り除くことです。


実は、40度前後のお湯に10分ほどゆっくりと浸かると、背中の皮脂は温まることで溶け出しやすくなります。毛穴の奥の汚れが溶け出すと、再び毛穴に酸素が供給されるようになり、酸素を嫌うアクネ菌の活動が抑えられ、正常な数へと落ち着いていきます。また、湯船に浸かって体温が上がることで、カチカチに固まっていた毛穴の角栓が緩み、無理に擦らなくても自然に皮脂汚れが流れ落ちやすくなります。

ゴシゴシ洗いが招く逆効果

一方で、汚れを落とそうとして強く擦ると、肌が傷つくだけでなく肌表面がアルカリ性に傾き、バリア機能が低下してしまいます。すると、普段はおとなしくしているマラセチア菌が異常増殖しやすくなり、毛包炎を引き起こすリスクも高まります。つまり、背中をきれいにしたいなら、強く擦るのではなく「正しく湯船に浸かること」が、菌の環境を整えるための近道です。


湯船に浸かる習慣は、単に汚れを落とす以上のスキンケアになります。次回、後編では具体的にどのように体を洗うのが良いのか、そのメソッドについて詳しくお話しします。

皮脂の溶解と入浴時間の関係について:

Pappas, A. (2009). Epidermal surface lipids. Dermato-endocrinology, 1(2), 72-76. (皮脂の融点と組成に関する研究)

Gfatter, R., Hackl, P., & Braun, F. (1997). Effects of soap and detergents on skin surface pH, stratum corneum hydration and fat content in infants. Dermatology, 195(3), 258-262. (洗浄剤が皮脂量やpHに与える影響の基礎研究)