取材・文:高村学(Minimal Inc.)、撮影:松本恵奈

2025.04.22
わたしと漢方
国から国へ毎週のように移動していた現役時代から子どもの成長を見守りながら丁寧に暮らす日々へ
浅尾美和(あさおみわ)タレント/元プロビーチバレー選手
「勝ち負けがすべて」のプロスポーツの世界に身を置き、第一線のアスリートとして活躍してきた浅尾美和さん。砂浜と潮風の中で競技が行われるビーチバレーは過酷そのもので、海外遠征も多く、「まるで武者修行みたいな毎日」だったと現役時代を振り返ります。当時は「身体の不調を感じることがないくらい気が張っていました」と話しますが、現役引退後は結婚を機に岐阜県に移住し、二児の母となり、スポーツキャスターやコメンテーターとして多方面で活躍しながらバランスの取れた生活を送っています。「家族の健康は、私の責任」と語る浅尾美和さんに、健康への向き合い方や日々の生活で大切にしていることについてお話しを伺いました。
頼れるものがあることに気付いたきっかけ
現役を引退して13年になりますが、結婚を機に岐阜県に移住して、今はスポーツキャスターやコメンテーターなどの仕事をしています。夫と息子二人、それにすぐ近くには夫のお義母さんが暮らしていて、海外遠征で世界中を飛び回っていた頃には考えられなかったようなバランスの取れた生活を送っています。現役時代は海外合宿や遠征試合も多く、休みは正月くらいでした。海外に出ると1ヶ月以上は日本に戻れません。ビーチバレーは冬の間は試合がなくて選手は休みだと思われがちですが、そんなことはありません。ブラジルやプーケットといった南国で試合することもあれば、グアムやサイパンで合宿も行いました。当時、世界一周航空券というチケットを使って、毎週のように国から国へ移動して、帰国してからも国内の大会に出場して、武者修行みたいな毎日でした(笑)。
二人制のビーチバレーにはメンバーチェンジがなく、どちらかが欠場すると棄権になるため、絶対に体調を崩せないという緊張感がありました。ちょっとくらいの不調では休めないというプロアスリートとしての自覚もありましたし、つねに気が張っていたせいか、身体の不調を感じたことは一度もありませんでした。ところが、現役を引退して岐阜県で暮らし始めた頃、めまいで起き上がれなくなったことがありました。海外遠征で何度も飛行機に乗って気圧の変化にさらされても、スイスのような高地で激しい試合をこなしてもなんともなかったのに、「なぜ、岐阜でめまい?」と戸惑いました。その時にお医者さんから苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)を処方いただき、初めて漢方薬を服用しました。現役時代からなにかに頼らずに、すべて自分で解決しないといけないという意識が強かったので、頼っていいものに出会えたと感じ、心が楽になりました。
今、振り返るといろいろと環境が変わって自律神経が乱れてしまったことがめまいの原因だったかもしれません。その時にお義母さんが本当に親身になって支えてくれました。誰かに頼ることも本当に下手でしたが、お義母さんに頼ることで気持ちがとても楽になりました。体調を崩したことで頼れるものがあることに気付けたのは、私の中でとても大きな経験でした。お義母さんは季節ごとの行事を大事にしていて、冬至だったら柚子風呂に入り、子どもの日なら菖蒲湯に入ります。私は現役時代、ほとんど日本にいなかったので、そういった行事を経験する機会がなかったのですが、お義母さんのおかげで日本の四季のありがたさを実感できています。年始には七草粥を食べて、春の訪れを感じたり、そういった生活を送ることが健康にもつながっているのかもしれません。

家族の健康のために私自身も健康でいる
家族の健康は私の責任だと思っていますから、私自身も健康でいられるように丁寧に暮らすことを意識しています。そのために、現役時代から大事にしていることですが、睡眠をしっかり取るようにしています。どこでも寝られる性格ですが、海外に遠征に行くと時差もあるので睡眠は本当に大切でした。今、振り返ると睡眠をしっかり取っていたおかげで、体調を崩すこともなかったのかなと思います。もともと夜遅くまで起きているより、早く寝て早く起きて活動することが好きなので、今も睡眠をしっかり取って朝型の生活を心がけています。朝の生番組に出演する日は3時50分には起床するのですが、自然と身体が目を覚まします。朝の早い仕事だと、昼過ぎには帰宅できますから、子どもが学校から帰ってきた時に「おかえり」と言ってあげられますしね。
健康のためには運動も大事ですが、実は今は現役時代のような運動は一切していません。現役当時は朝から晩までトレーニング漬けでしたので、引退してからは「トレーニング!」と聞いただけで「戦わなくちゃ!」とスイッチが入ってしまいます(笑)。その代わり、「ながらトレーニング」をしています。ジムに通わなくても家事などの普段の生活の中で少しやるだけで全身運動になることがあります。例えば、掃除機をかける時は肩甲骨からしっかり腕を伸ばすだけで背筋が鍛えられますし、息を吐いておなかを引っ込めるだけで腹筋に効きます。私は普段、電車での移動が多いのですが、駅ではスーツケースを持っていても絶対に階段を利用するようにしていますし、生放送の番組ではCM中はスクワットをしています。ジムに行くとなると、まずはやる気がいりますし、ウェアやシューズも用意しなければなりません。子どもと遊ぶ時でも意識すればトレーニングに繋がることはたくさんありますし、ジムに通わなくても無料で鍛えられますよね。
それから、食事ももちろん大切にしています。現役時代から食事は自分で作っていたくらい料理が大好きで、今日も夕飯を作ってから仕事に出かけました。お義母さんもいつも褒めてくれます。現役当時は食べることもトレーニングのうちだと考えていましたので、食事を楽しむというより試合に勝つためといった感じでした。今はできるだけ家族と一緒に楽しみながら食事するように心がけていますし、旬の野菜や魚、果物を摂るようにしています。旬なものは味が濃くて栄養がありますし、バランスも考えながら料理をしています。一日の終わりには湯船にもしっかり入って、身体の疲労をとるようにしています。身体の疲労をとるのに水圧はすごく大事で、その日の疲れを翌日に引きづらないためにも入浴することを心がけています。

誰かを応援する喜び
現役を引退してから、お菓子作りにハマりました。甘いものが大好きなのですが、現役時代は食事制限もありましたし、アスリートはドーピング規定がありますから、口から摂るものにはすごく敏感になっていましたし、食べたいものを我慢することも多かったです。今はそういった制限もないですし、いただいたものは全部食べていますが(笑)、その方が気持ちはすごく楽ですよね。先日もスイーツを作って、スタイリストの友人たちにも配りました。それと、蓮根が大好きで、先日は蓮根作りのロケに福岡まで行ってきましたが、栽培の大変さを知ってより愛着が湧きました。蓮根は免疫力を高めてくれる食材で、しかも安いので家計にも優しいですよね。きんぴらや煮物、ペペロンチーノなど和洋問いませんし、私のレシピには数えきれないくらいレパートリーがあります。蓮根は輪切りや半月切りではなく、短冊切りにするのが私のおすすめで、食感をより楽しめますね。浅尾家の食卓にはなぜか蓮根料理が出なかったのですが、その反動なのか、蓮根の可能性をひたすら探求しています(笑)。
今は、子どもの成長も楽しみのひとつです。子どもたちは野球を頑張っているのですが、庭で練習する時は私も一緒にキャッチボールをすることもあります。私はプロの世界にいたので結果がすべてでしたが、以前のように勝ち負けは気になりません。スポーツなので勝敗の結果は付き物ですが、子どもたちにとって野球は仕事ではありませんし、楽しんでやることが一番大事なことだと思います。今はまだしっかりボールがバットに当たらないかもしれませんが、「継続は力なりって言葉があってね」と伝えながら、毎日欠かさず素振りをして努力しているところを褒めています。チームメイトに声がけしているのを見るととても感動しますし、「声がけができて偉いね!」と褒めています。子どものそういった成長もきっかけでしたが、引退してから野球や違うスポーツを観るようになって、ファンの方たちはこういう気持ちだったんだと気が付きました。誰かを応援してこんなに素敵な気持ちになったり、自分が応援しているチームが勝ったらこんなに夜ごはんが美味しく感じるんだと、誰かを応援する喜びに気付きました。現役時代に気付けていたら、というのが少し後悔ですが、スポーツを観ることはこんなにも刺激があるということをもっと伝えていきたいと思っています。
もうひとつの楽しみは、子育てが落ち着いてからの話ですが、夫がお酒好きなので全国の美味しい食べ物を巡りならが温泉旅行に行くことです。健康第一とよく言いますが、本当にその通りで、年齢を重ねていくと当たり前なことではなくなります。健康でなければ旅行にも行けませんし、美味しいものも食べられません。そのためにも今の健康的な生活をこれからも大切にしていきたいと思います。

浅尾美和/あさおみわ
1986年生まれ、三重県出身。高校時代にインドアバレーで2度にわたって春高バレー出場。高校卒業後にビーチバレーに転向すると、国内ツアーでは7度の準優勝と2度の優勝。2012年に現役を引退し、結婚を機に岐阜県に移住。現在は、テレビ朝日「有働TAIMES」やMBS毎日放送「よんチャンTV」の木曜コメンテーターなどを務める。2児の母。
公式インスタグラム https://www.instagram.com/asaomiwa1986_official/