
2025.05.28
漢方ブログ
【家庭の漢方医学Vol.3】コントロールできない気分のアップ・ダウンに対する漢方薬の選び方と対処法
目次
■コントロールできない「イライラ」「気分の落ち込み」 その原因は「ホルモンバランスの乱れ」かもしれません。
■「ホルモンバランスの乱れ」による不調が現れやすい 生理前と更年期
■イライラ、気分の落ち込み …それは「気」の乱れのサイン?
■コントロールできない気分のアップ・ダウンやイライラ、気分の落ち込みにおすすめの漢方薬:「加味逍遙散」「抑肝散」「半夏厚朴湯」
■「気」の乱れとホルモンバランスを整える養生法
コントロールできない「イライラ」「気分の落ち込み」 その原因は「ホルモンバランスの乱れ」かもしれません。
「生理前、気分のアップ・ダウンが激しくて、仕事に行くのがつらい…」「子どもが言うことをきかず、怒鳴ってしまってハッとした」「友人からのちょっとしたひと言、いつもならスルーできるのに急に気持ちが落ち込んでしまった」「ベッドで横になっても目がさえて眠れない」――。こうした、コントロールできない気分のアップ・ダウンに悩んでいませんか?
実は、これらの症状は、ホルモンバランスの乱れが原因かもしれません。
女性の心と身体は、思春期から更年期を経て老年期へと、生涯にわたって女性ホルモンの影響を受けています。特に生理前や更年期は、ホルモンバランスが乱れやすく、心身にさまざまな不調が現れやすい時期です。
では、「ホルモンバランスの乱れ」とは、具体的にどのような状態を指すのでしょうか?
女性ホルモンには「エストロゲン(卵胞ホルモン)」と「プロゲステロン(黄体ホルモン)」の2種類があります。このうち、「エストロゲン」の分泌量が正常ではない状態を「ホルモンバランスの乱れ」といいます。
ホルモンバランスが乱れると、精神面にさまざまな症状が現れます。たとえば、イライラ、気分の落ち込み、不安感、集中力の低下、モヤモヤ、虚無感、不眠などが挙げられます。
漢方医学では、女性ホルモンの変動に伴って現れる精神不安やイライラなどの精神神経症状を「血の道症(ちのみちしょう)」と呼び、古くからさまざまな漢方薬が用いられてきました。生理前や更年期に現れるイライラ、気分の落ち込みなどの不調も血の道症に含まれます。
これらの症状に気づいたら、無理や我慢をせずに、早めに対処することが大切です。
なお、症状が激しい場合、日常生活に大きく支障をきたしている場合は、別の病気が隠れている可能性があります。早めに婦人科などで医師の診察を受けましょう。
女性の身体のコンディションを左右する「エストロゲン」と「プロゲステロン」
女性の身体は、ホルモンの変化に大きく左右されることをご存じですか?
エストロゲンは、肌のハリや潤いを保ち、骨を丈夫にする働きがあります。一方、プロゲステロンは、妊娠を維持するために子宮内膜を整え、体温を上げる働きがあります。この2つのホルモンは、約25~38日ごとの生理周期に合わせて増減し、女性の身体のバランスを保っています。

生理が始まってから排卵までの間は、エストロゲンの分泌が盛んになり、心が安定しやすく、お肌の調子もよくなります。排卵後は、プロゲステロンの分泌が盛んになり、身体が妊娠に備えた状態になります。妊娠しなかった場合は、プロゲステロンが減少し、子宮内膜が剥がれ落ちて生理が始まります。
女性の身体は、生涯を通してホルモンの影響を受け続けます。40歳前後から50歳前後の更年期には、エストロゲンの分泌が大きく減少し、ホットフラッシュ、イライラ、不眠など、さまざまな不調が現れることがあります。

「ホルモンバランスの乱れ」による不調が現れやすい生理前と更年期
生理前の不調、もしかしてPMS(月経前症候群)?
生理前になると、どうしようもなくイライラしたり、憂鬱になったりすることはありませんか?
それは、PMS(月経前症候群)かもしれません。
生理前に現れる主な症状には、精神面では「イライラ」「気分の落ち込み」「不安感」などが、身体面では「頭痛」「腰痛」「乳房のハリや痛み」「便秘」などがあります。これらの症状が、生理開始10日前から3日前あたりに現れ、生理が始まると症状が軽減、または消失する場合をPMS(月経前症候群)といいます。
どうして生理前に症状が起こるのかというと、この時期に女性ホルモンのプロゲステロンが増加して、エストロゲンとプロゲステロンの分泌量のバランスが大きく変化することが関係していると考えられています。
更年期の不調
最近、急に身体が熱くなったり、イライラしたりすることはありませんか?
それは、更年期のサインかもしれません。
更年期とは、閉経の前後約10年間を指しますが、期間や症状には個人差があります。日本人の平均的な閉経年齢は約50歳ですから、年齢的には40歳代半ばから50歳代半ばが更年期といえるでしょう。
女性の更年期は、女性ホルモンのエストロゲンが大きく減少する時期で、身体にさまざまな変化が現れやすくなります。主な身体の症状としては、急に身体がカーッと熱くなり、汗が止まらなくなる「ホットフラッシュ」、顔や身体がほてる「のぼせ」、ドキドキする「動悸」などがあります。また、心の症状としては、些細なことで怒りっぽくなったり、感情のコントロールが難しくなる「イライラ」、気持ちが沈む「気分の落ち込み」、なかなか寝付けない「不眠」などがあります。
イライラ、気分の落ち込み…それは「気」の乱れのサイン?
最近、どうもイライラしたり、気分が沈んだりする…それは、漢方でいう「気」の乱れかもしれません。
漢方医学では、イライラや気分の落ち込みなどの不調は、生命エネルギーである「気」が全身をスムーズに流れていない状態だと考えます。「気」とは、目には見えないけれど、私たちの身体をめぐるエネルギーのようなものです。スムーズに流れている時は心も身体も元気ですが、滞ったり偏ったりすると、不調が現れます。
ホルモンバランスの乱れによって気分のアップ・ダウンが起こるのは、「気」の流れが乱れたことで、身体の各所に「気」が適正に分布せず、偏りのある状態と捉えることができます。
「気」の偏り方には、①「気」が滞って過剰になった場合、②「気」が分配されず不足した場合、③「気」の分配の過剰・不足の両方がある場合、 の3つがあり、それぞれ現れる症状が異なります。
①「気」が滞って過剰な場合:「気分のたかぶり」「イライラ」「不眠」
「気」の流れが滞って過剰になると、気分がたかぶり、興奮して、「イライラ:些細なことでカッとなり、人に当たり散らしてしまう」「怒りっぽい」「不眠」「焦燥感」といった症状が現れます。ときに攻撃的になることもあります。
②「気」が分配されず不足した場合:「気分の落ち込み」「憂うつ」「不安」
「気」が十分に分配されず不足すると、気分が落ち込み、憂うつになったり、「不安感」「意欲の低下」「気分がふさぐ:何もする気が起きず、一日中布団の中で過ごしてしまう」といった症状が現れます。
③「気」の分配の過剰・不足が両方ある場合:激しい「気分のアップ・ダウン」
「気」の分配が過剰になったり不足したりして一定しない場合は、「イライラ」と「気分の落ち込み」の両方が現れます。気持ちのアップ・ダウンが激しくて、ときに自分の気持ちをコントロールするのが難しくなります。
「気」の流れをよくするためには、軽い運動や深呼吸、リラックスできる時間を持つことが大切です。また、バランスの取れた食事や十分な睡眠も、「気」を整えるために重要です。
※漢方特有の概念である「気・血・水」の詳細はこちらをご参照ください。
コントロールできない気分のアップ・ダウンやイライラ、気分の落ち込みにおすすめの漢方薬:「加味逍遙散」「抑肝散」「半夏厚朴湯」
ホルモンバランスの乱れによって起こる不調に対しては、「気」の乱れを整え、めぐりをよくする漢方薬を用いて症状の改善をはかります。お困りの症状によって、おすすめの漢方薬は異なります。
気分のアップ・ダウンが激しくコントロールできない方へ
加味逍遙散(かみしょうようさん)

加味逍遙散には「気」のめぐりを整えて気分を安定させる働きがあり、生理前や更年期に現れるイライラや不安感、不眠症などを改善します。
加味逍遙散の「逍遙」とは、行ったり来たりして移り変わるという意味です、加味逍遙散という名称は、症状の種類が複数あって、不調が次々と移り変わる場合(不定愁訴)に適していることに由来します。
生理前や更年期をはじめ、ホルモンバランスが乱れやすい時に起こる 心身の症状に広く用いられています。
加味逍遙散には「気」のめぐりを整えて気分を安定させる働きがあり、生理前や更年期に現れるイライラや不安感、不眠症などを改善します。
加味逍遙散の「逍遙」とは、行ったり来たりして移り変わるという意味です、加味逍遙散という名称は、症状の種類が複数あって、不調が次々と移り変わる場合(不定愁訴)に適していることに由来します。
生理前や更年期をはじめ、ホルモンバランスが乱れやすい時に起こる 心身の症状に広く用いられています。
加味逍遙散はこうした症状のある方に適しています
•気分のアップ・ダウンが激し、コントロールするのが難しい。
•イライラしたり怒りっぽいこともあれば、気分の落ち込みや不安を感じることもある。
•気分が不安定で夜、眠れない。
【効能・効果】
体力中等度以下で、のぼせ感があり、肩がこり、疲れやすく、精神不安やいらだちなどの精神神経症状、ときに便秘の傾向のあるものの次の諸症:冷え症、虚弱体質、月経不順、月経困難、更年期障害、血の道症(※)、不眠症
(※)血の道症とは、月経、妊娠、出産、産後、更年期など女性のホルモンの変動に伴って現れる精神不安やいらだちなどの精神神経症状および身体症状のことである。
「気分のたかぶり」「イライラ」にお困りの方へ
抑肝散(よくかんさん)

漢方医学では、五臓六腑の「肝」の機能が失調すると感情が乱れやすくなり、気分のたかぶり、イライラなどの症状が起こると考えます。
抑肝散は、「肝」の失調を整えることで、気分のたかぶりや興奮をしずめ、イライラや不眠症などを改善します。
抑肝散は、ホルモンバランスの乱れによるイライラのほか、歯ぎしりや小児の夜泣きにも用いられます。生後3か月以上のお子様からお飲みいただけます。
抑肝散はこうした症状のある方に適しています
•ストレスを感じやすく、イライラしてしまう。
•興奮してカッとなってしまう、最近怒りっぽくなったと感じる。
•目がさえて寝つけない。
•眠りが浅く、歯ぎしりが気になる。
【効能・効果】
体力中等度をめやすとして、神経がたかぶり、怒りやすい、イライラなどがあるものの次の諸症:神経症、不眠症、小児夜泣き、小児疳症(神経過敏)、歯ぎしり、更年期障害、血の道症(※)
(※)血の道症とは、月経、妊娠、出産、産後、更年期など女性のホルモンの変動に伴って現れる精神不安やいらだちなどの精神神経症状および身体症状のことである。
「気分の落ち込み」「不安感」でお困りの方へ
半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)

「気」の流れが停滞すると、気分がふさいだり、のどに何か物がつまっている感じがすることがあります。半夏厚朴湯は、停滞した「気」をめぐらせることにより、気分の落ち込みやのどのつかえ感、不安感などの症状を改善します。ストレスを受け胃の調子が悪い場合にもお使いいただけます。
半夏厚朴湯はこうした症状のある方に適しています。
•気分がふさぐ、気分が落ち込む。
•のどに何かがつまっている感じがする。
•不安を感じる。
•些細なことが気になる。
【効能・効果】
体力中等度をめやすとして、気分がふさいで、咽喉・食道部に異物感があり、ときに動悸、めまい、嘔気などを伴う次の諸症:不安神経症、神経性胃炎、つわり、せき、しわがれ声、のどのつかえ感
「気」の乱れとホルモンバランスを整える養生法
「気」の流れをよくし、「ホルモンバランスの乱れ」を整えるには、ストレスを軽減し、生活習慣を整えることが大切です。以下のポイントを参考にバランスのよい食事、十分な睡眠、習慣的な運動を実践しましょう。
「気」の流れをよくする方法
・ストレスを受けると「気」の流れが乱れやすくなります。イライラしたり不安を感じたときは、ゆっくりと深呼吸を1~3分繰り返せば、リラックスして「気」の流れもよくなります。
・自分がイライラしていると感じたら、しっかり休息をとり、自分に合った方法でストレスを解消するように心がけましょう。
・同じ姿勢で身体を動かさないでいると「気」の流れが悪くなります。身体を動かしたり、自分のペースで運動して、「気」の流れを整えましょう。
よい睡眠をとるための工夫
・眠りのリズムを整えるホルモン「メラトニン」がしっかり分泌されていれば、女性ホルモンの働きが高まります。スマホなどのブルーライトはメラトニンの分泌を減少させるといわれているので、寝る2時間前にはスマホを手放し、寝室を暗めにしてメラトニンの分泌を促しましょう。
大豆を食べてホルモンバランスを整える
・大豆に含まれている大豆イソフラボンは、女性ホルモンのエストロゲンと似た構造をしていて、植物性エストロゲンとも呼ばれています。大豆イソフラボンを摂ると腸内細菌によってエクオールという成分になり、腸から吸収されて女性ホルモン作用を発揮します。
更年期の食養生
・閉経を迎える50歳前後になると、加齢とともに五臓六腑の「腎」の力が弱まって、生命力や精力と呼ばれる力が落ちてきます。「腎」の力は、黒い食材を摂ることで補うことができます。黒豆、ひじき、昆布、黒米などを摂ることが老化防止につながるとされています。