生物多様性・持続可能な原料調達

創業時からの考え方

ツムラグループは生薬を原料とした事業を展開しているため、野生植物などの天然資源の枯渇は経営リスクに直結します。こうした背景から、いち早く生物多様性の保全に努めてきた長い歴史があります。津村重舎(初代)は、原料生薬として使用できる種の特定と、科学に裏打ちされた栽培化、および種の保存を創業時からの課題とし、心血を注いできました。1924年には、植物成分と和漢薬の科学的研究・分析を目的とした「津村研究所」を創設。その成果は後年、漢方薬の興隆に多大な貢献をもたらしました。また、重舎は研究所の創設と同時に、津村薬草園の設立にも着手しています。

創設当時の津村薬草園(東京都)
創設当時の津村薬草園(東京都)

研究所の創設と同じ頃、日本における植物分類学の第一人者である牧野富太郎博士が、野生植物の調査・研究に関わる国際的な学術雑誌「植物研究雑誌」を主宰していました。1926年、牧野博士の活動に賛同した初代重舎が支援を決意し、同誌の発行を津村研究所が引き継ぎました。二人はこの雑誌づくりを介して協働し、アジアの植物の多様性解明とともに、漢方薬の基本となる薬用植物の分類学的・生薬学的評価や教育推進に、長年にわたって取り組みました。
近年の当社グループは、恵み豊かな生態系を次世代に引き継いでいくために、植物種の高度な鑑定技術の開発とライブラリー化、専門人材の育成に力を注ぎました。加えて、原料生薬(薬用作物)の生育環境や収穫時期の違いに起因する品質の変動を分析・評価し、均質性を担保するための生産ノウハウを蓄積してきました。そして現在、ツムラでは2022年に制定した「サステナビリティ憲章」に生物多様性への配慮を示し、野生生薬の適正な採取、「ツムラ生薬GACP」に基づいた生薬生産の精緻な管理、農薬の適正使用・検査など、さまざまな施策を実直に展開しています。

主な原料生薬の調達エリア

目標と進捗結果

項目 進捗
(2023年度実績)
対象 2031年度目標
(基準年:2020年度34品目)
野生生薬の使用品目数
(栽培化)
3品目栽培化 23品目栽培化

◎・・・ツムラグループ全体

森づくりを通じた生態系の保全

土佐ツムラの森

高知県は森林の宝庫

日本の主要な生薬生産地の一つに高知県越知町があります。
高知県の森林率は日本1位、また、スギやヒノキなど人口林率は全国で2位。
県土の84%が森林に覆われている自然豊かな土地です。
一方で、近年は低価格の外材輸入による国産材の価格低下、林業就業者の高齢化や減少が進み、その多くで手入れの行き届かない状況になっています。
私たちは生薬栽培地の自然環境を保全し、森林が育む豊かな生態系を次世代につなぐため、高知県の主催する「環境先進企業との協働の森づくり事業」に2008年度から参加しています。

私たちが守る森林76.65haは(東京ドーム約16個分)にも及びます。私たちはこの大切な森林を「土佐ツムラの森」と名付け、森林組合を通じて植栽、下刈り、間伐など森が生き生きとなる活動を展開しています。

  • 土佐ツムラの森
  • 林内の様子

森林保全を通じたCO2吸収

「土佐ツムラの森」の森林整備を通じてこれまでに吸収できたCO2排出量は、約1,770t。私たちは「土佐ツムラの森」を通じて、地域とともに生薬栽培地を土砂崩れなどから守り、薬用植物の生産に必要な良質な水を育む水源涵養機能を高めるとともに、気候変動の削減や生物多様性の保全に貢献していきます。

生物多様性を学ぶ教育支援活動

「土佐ツムラの森」では、生物多様性を学び持続可能な社会づくりの担い手を育む次世代育成にも貢献しています。詳しくはこちら。

特定外来生物の防除活動への貢献

「土佐ツムラの森」で共に協働しているパートナーの一つに公益財団法人高知県牧野記念財団(以下、牧野植物園)があります。
牧野植物園では、生物多様性を脅かす恐れのある特定外来生物の防除活動をボランティアの方々と取り組んでいます。
2023年3月、私たちはボランティアの方々が安全に快適に活動出来るように高知県立牧野植物園に対し、株式会社モンベル様の協力を得て、屋外活動用のユニフォーム350着を寄付いたしました。
また、2023年11月には当社社員が特定外来生物「ナルトサワギク」防除活動に参加し、その大変さを肌で実感しました。

  • 牧野植物園 ユニフォーム寄附
    左から株式会社モンベル 竹山常務取締役、牧野植物園 川原園長、杉井Co-COO
  • ナルトサワギクの防除ボランティアへの参加

野生生薬の栽培化

生物多様性保全の観点から、2031年度をターゲットとする中長期環境目標の中に、野生品の生薬を使用する品目数の削減を掲げています。当社グループが使用する原料生薬のうち植物由来の生薬は110品目ありますが、2020年時点では、そのうち34品目で野生品を一部または全量使用していました。今後は栽培化によって、2031年度までに23品目を完全に栽培化する計画を立てています。
なお、計画のうち、「知母(ちも)」、「桔梗(ききょう)」および「防風(ぼうふう)」という生薬においては、既に栽培品への全量切り替えを実現しています。一例として、知母ではこれまで規格成分の高い野生品を一部で使用していましたが、栽培品の生産方法を改良することで、規格成分を高めることに成功し、実生産検証を経て、野生品に依存しない生産体制を構築しました。

今後もマテリアリティの一つである「持続可能な原料調達」を実現するため、野生生薬の栽培化に関する研究開発および実生産への展開を進めます。

左から、知母(地上部・生薬)、桔梗(地上部・生薬)、防風(地上部・生薬)

持続可能な人参栽培の推進

人参は高麗人参などとも呼ばれる代表的な生薬の一つです。栽培においては、畑の準備から収穫までに4~7年程度かかるうえ、病害に弱く、風雨や強光を防ぐための屋根や頻繁な手入れが必要であるなど、その栽培は容易ではありません。そのため、これまでツムラグループは人参の持続可能な確保に向けた研究開発を国内外で継続してきました。
人参は、日本や韓国では畑で栽培されています(畑地栽培)。一方、世界一の生産量を誇る中国では、畑地栽培は困難とされ、慣行的に森林伐採を伴う林地での栽培が一般的でした。

しかし、森とそれに関わる生物多様性や生態系サービスの保全のためには、森林伐採を伴わない畑地栽培化が望まれます。
そのような状況下、当社が調達する人参の多くを供給する白山林村中薬開発有限公司(以下、白山林村)は、中国の大学や研究機関と研究・交流を推進し、2016年からは人参の畑地栽培を実生産に展開しました。現在では、産出量の過半を畑地栽培産にすることに成功しています。そのため、政府による天然林の保護施策にともない、栽培禁止となる林地が増えている状況下でも、適切な対応をとることができています。
白山林村による畑地栽培化の推進は、人参の安定供給と自然の保全を両立するうえで意義ある取り組みであると考えています。

  • 収穫後の栽培地(林地)
  • 畑地栽培地の様子
  • 栽培中の人参(畑地)
  • 温室における人参栽培研究
    温室における人参栽培研究
  • 社員による生育確認
    社員による生育確認
  • 洗浄中の人参
    洗浄中の人参

なお、畑地栽培化にあたっては、伝統的な人参栽培を参考に、化学肥料ではなく有機物主体の土壌改良を行っています。これからもツムラグループは伝統と革新の基本基調のもと、人参をはじめとする様々な生薬の持続可能な調達を推進します。

ラオツムラの設立と不発弾処理

ラオツムラは、桂皮などの南方系の生薬の調達拡大とトレーサビリティ体制の強化を目的に、2010年2月に設立されました。ラオス政府が推進している「2+3政策」※1に合致した一次産業事業であり、現地での雇用創出や社会経済基盤の整備を実施することから、ラオス政府からも期待されての設立となりました。
試験栽培を開始した2005年当時、ラオスには1970年代まで続いた戦争によるUXO(不発弾)が残っていたため、当社はまず専門の調査会社を起用して不発弾の調査を開始しました。
その後2008年に日本政府が促進する官民連携案件※2に提案し、ラオスの農業技術の移転や現地雇用の促進に資すると認められ、ODA※3の資金を活用する官民一体の取り組みとして、2011年から3年間で約600haの土地を処理しました。
不発弾に由来する金属類を処理することで、危険な状況にあった土地の農地整備を進め、安全に農業に従事できる場を提供するなど、地域住民や社会と共生した生薬栽培を推進しています。
ツムラグループは、この生薬栽培事業を通して、現地雇用の拡大、農業技術の移転・普及などラオスの経済成長に繋がる貢献を継続して実施していきたいと考えています。

  • ※1:ラオスが土地と労働力を提供し、外資が資本・技術・市場を提供する政策
  • ※2:発展途上国における民間企業の活動とODAの連携により、ODAだけではできない雇用の拡大や技術の移転、貿易・投資の促進などに貢献することを目的に、2008年 4月から民間企業の提案を受け付けている制度
  • ※3:政府開発援助
  • JMAS(日本地雷処理を支援する会)によるクリアランスの様子
    JMAS(日本地雷処理を支援する会)によるクリアランスの様子
  • ラオス国防相サーンセーン局によるクリアランスの様子
    ラオス国防相サーンセーン局によるクリアランスの様子

TNFD提言に基づく情報開示

ツムラグループは、パーパス「一人ひとりの、生きるに、活きる。」、経営理念「自然と健康を科学する」を掲げ、自然の恵みである生薬を原料とした事業展開を通じて、一人ひとりの健康に寄り添い、人と社会、および自然環境が調和を保ち健やかに巡る、地球全体のwell-beingに貢献していきたいと考えています。その実現のためには、事業の根幹を成す豊かな自然環境を未来へつなげなければなりません。自然資本と気候変動は密接で不可分な関係であり、生物多様性をはじめとした自然資本の保全・回復や、脱炭素等の気候変動対応は、必要不可欠であると認識しています。私たちは、TNFDとTCFDの提言に基づき、以下の枠組みのもと、情報を開示いたします。

TNFD TCFD
序論(フレームワークへの対応) 1. TNFD/TCFD提言に基づく情報開示
ガバナンス
リスク管理
戦略 2. TNFDの戦略と指標・目標 3. TCFDの戦略と指標・目標
指標と目標

関連ページ

サステナビリティSustainability