CEOメッセージ

一人ひとりの「治療・未病・養生」を支える価値創造を進化させ、
社内カンパニー制のもとで各事業の成長を着実に実現し、
多柱化を確かなものにしていきます

代表取締役社長 CEO(最高経営責任者)

構造変化の時代に、漢方の強みと多柱化で未来の成長を拓く

「一人ひとりの、生きるに、活きる。」というパーパスは、社会構造が大きく変わる今、ツムラグループが未来に向け進むべき方向を明確に示しています。2040年代前半には高齢者人口がピークを迎える一方で、生産年齢人口の減少が続くことにより、医療費の増加や医療提供体制への負荷は今後さらに高まっていくことが予想されます。限られた医療資源の中で誰もが安心して医療を受けられる社会を維持していくためには、一人ひとりの体調変化を「未病」段階から早期に捉えて治療することや、個別化医療を推進することで、医療の効率化と質の向上につなげる取り組みが不可欠です。これらの変化は、当社グループにとって課題であると同時に、新たな価値を生み出す大きな機会でもあります。

漢方製剤は、病名ではなく患者様一人ひとりの症状に基づいて処方されるため、多様化する健康課題にも柔軟に対応できる強みがあります。1つの処方に複数の成分が含まれるため、多様な症状に対して効果を示すことが期待される特性は、複数の疾患が複合的に現れやすい高齢者や、ライフステージごとに多面的な不調が生じやすい女性の医療ニーズとも高い親和性があります。実際、医療用漢方製剤の利用者の約5割*1が65歳以上であるというデータは、漢方が高齢者医療においてすでに重要な役割を果たしていることを示しています。

一方で、2040年代以降は高齢者人口が減少に転じ、中長期的に国内医薬品市場は緩やかに縮小していくことが見込まれます。医療用医薬品事業のみに依存した事業構造のままでは、持続的な成長を実現することは困難です。当社はこうした構造変化を正面から受け止め、海外事業とヘルスケア事業を医療用医薬品事業に続く「第2・第3の柱」へと育成し、経営基盤をより強固にする多柱化を加速しています。海外事業については、まずは生薬原料の主要調達国である中国において、中国国民の健康に貢献する事業基盤の確立を優先しています。

  • ※1 第10回NDBオープンデータ(2023年4月~2024年3月)をもとに、当社にて試算

伝統医薬が積み重ねてきた価値を未来へつなぎ、医療の可能性を広げる

伝統医薬である漢方薬・中薬は、長い歴史の中で臨床経験が蓄積され、その知見が医師の処方選択や患者様にも広く受け入れられ医療文化として根付いてきました。こうした経験知は、医学の進歩と科学技術の進展により作用機序の科学的な解明が進むことで時間とともに価値が高まる特性を持ち、伝統医薬ならではの持続的な競争優位を形成しています。

中国の中医学は「弁証論治」*2に基づき、一人ひとりの症状を詳細に診断し、生薬の組み合わせや量を調整する、いわば究極の個別化医療です。一方、日本の漢方は「方証相対」*3に基づき、「証」*4や症状が同じであれば同じ処方を用いるため、標準治療としてエビデンスを蓄積しやすい特性があります。両者は異なる強みと課題を持ちながらも、いずれも文化的・制度的な基盤の上で長期的な価値を生み出してきました。ツムラグループは、この伝統医薬の本質的価値を深く理解し、日中それぞれの特性を踏まえた事業展開を進めています。

当社グループは、この価値を未来につなぐために、生薬から医薬品を創る研究基盤、栽培・調達基盤、製造基盤、そして生薬生産者や医療関係者との社会関係基盤を長年にわたり磨いてきました。これらを支える専門性の高い人財の知識と経験が、天然物由来でありながら均質性・安全性・有効性を確保し、医療用医薬品としての品質を実現する力となっています。ここに、当社グループの競争優位性の源泉があります。そして、伝統医薬の価値を次の時代へと進化させることこそ、ツムラが果たすべき使命であると私は確信しています。

  • ※2 中医学における診断・治療法を示す方法論。患者の状態を総合的に分析し、その人に合った治療法・中薬処方を選択すること
  • ※3 患者の病態を表す「証」と、それに対応する漢方処方(方剤)を結びつけて診断・治療を行う日本漢方の考え方
  • ※4 漢方医学で用いる4つの診断方法=「望診」「聞診」「問診」「切診」によって、「証」に合った漢方薬が処方される

個別化治療の推進と未病の科学化を通じ、国内外の医療課題に応える

国内の医療用漢方事業は、これまでのエビデンス構築により培ってきた漢方標準治療のさらなる拡大と漢方治療の個別化に取り組んでいます。漢方治療の個別化においては、一人ひとりの体質や症状に応じた治療を推進すべく、DX・AIなどの技術を活用し、「証」の診断を支援する「漢方診断サポートシステム」をアカデミアと共同で開発を進めています。医師による患者様一人ひとりに最適な漢方処方の選択を支援することで、治療効果の早期発現、医療費の適正化、患者様のQOL向上といった社会的価値の創出を目指しています。
同時に、未病状態の科学的解明と診断・治療方法の確立にも取り組んでいます。未病段階での早期介入は、病気の進行や重症化を防ぐ可能性を高め、社会全体の医療負荷を軽減する上でも重要性が増しています。未病の科学化は、未来の医療モデルを形づくる上で不可欠な領域であり、当社の知見と天然物由来の医薬品である漢方製剤が、前例のない先進的かつ大きな価値を提供できる領域でもあります。
これらの取り組みは、国内の高齢社会が抱える課題に応えるだけでなく、アジアを中心とした国際的な医療課題にも貢献できると考えています。

治療から養生領域まで価値創造領域を拡大し、事業の多柱化を推進

ツムラグループは長期経営ビジョンにおいて、治療領域に加えて未病・養生領域への価値提供を拡大し、多柱化を進める方針を掲げています。その中でヘルスケア事業は、当社の成長を支える重要な柱の一つです。近年、セルフメディケーションの浸透により、「医療用で効果を実感した漢方を市販でも購入したい」という声が高まっています。当社は、薬剤師や登録販売者の適切な指導のもと、自分の体質や症状に合った漢方製剤を選択いただく「相談漢方」モデルを基盤に、一般用漢方製剤の取扱店舗数を着実に拡大してきました。

養生における価値創造では、当社グループの強みであるGACP管理のもとトレーサビリティが確保された高い品質レベルの生薬を中核コンセプトにした薬食同源製品で健康維持・増進を追求します。養生は栄養・運動・睡眠・ストレスに留意し、身体が本来持つ自然治癒力を高め、心身を良好な状態に保つための行動と定義しています。治療(漢方)と養生(薬食同源製品)を組み合わせることで相乗効果が期待できる点は、当社ならではの強みです。

養生領域における価値創造を加速する上で、養命酒事業の承継は大きな機会となりました。「養命酒」は強固なブランド力を持ち、同社が展開する五養粥やスープなどの養生食品は、当社グループのラインアップを大きく拡充します。

また、養命酒の構成生薬に関する研究が進んでおり、当社の研究基盤と組み合わせることで、基礎研究から新商品開発まで一貫した研究開発体制を構築できます。これにより、当社グループは治療から未病・養生までを一貫して支える企業への進化をさらに加速させます。

中国事業では、中医学に基づく中薬飲片による個別化医療において、「一人一方」*5による新たな価値創造に取り組んでいます。飲片は患者様が煎じる手間や携帯性、均質性に課題がありますが、スマートファクトリー設備を活用し、患者様の代わりに処方箋どおりに飲片を煎じ、煎じ液・流エキス・エキス顆粒へ加工・包装したものを直接患者様に届けるスマートサービスが、「一人一方」であり、この市場ポテンシャルは非常に大きいと見ています。2025年8月にグループ入りした上海虹橋中薬飲片有限公司の販売力を基盤に、トレーサビリティが確保された高品質な生薬と、「一人一方」の製造技術をかけ合わせることで、先進的な中薬飲片事業モデルの確立を目指しています。

  • ※5 患者様の代わりに、スマートファクトリー設備で飲片を煎じ、煎液、流エキス、エキス顆粒に加工・包装したものを郵送するスマートサービス

社内カンパニー制とガバナンス強化で、変化に強い経営基盤へ進化する

ツムラグループは2026年4月に社内カンパニー制へ移行し、事業ごとの責任と権限を明確にした運営体制を整えました。医療・ヘルスケア産業を取り巻く環境変化は加速しており、長期経営ビジョンの確実な実現には、経営判断のスピードと精度を一段と高めることが不可欠です。取締役会でも、社内カンパニー制の導入や近年の資本提携等を踏まえ、「攻めのガバナンス」への転換が重要な論点となりました。

こうした課題認識のもと、当社がカンパニー制導入で目指したのは大きく4点です。第一に、権限委譲による意思決定の迅速化。第二に、独立採算制による責任の明確化。第三に、将来の経営を担う人財の早期育成。そして第四に、収益性の高い事業を複数育てる「多柱化」の加速です。取締役会は執行と監督の分離を段階的に進め、業務執行取締役社長が議長を務めるグループ経営戦略会議へ大幅な権限委譲を行い、経済産業省が公表した「『稼ぐ力』を強化する取締役会5原則」を実践しながら、ガバナンスを強化していきます。

カンパニー制の導入により、各カンパニーはP/Lだけでなく、B/Sやキャッシュ・フローまで含めた経営管理を担います。利益を上げるだけではなく、資本効率や資金管理までを含めて事業を運営することで、経営人財としての成長を促す狙いです。一方で、全社最適のための横串連携は維持し、協働と自立を両立させた組織運営を継続します。2026年度はこの仕組みを固める重要な一年であり、2027年度以降はカンパニー制が本格的に機能する体制へ移行します。

ガバナンス面では、執行と監督の分離を徹底するため、社外取締役の比率を高め、各カンパニーの経営会議に常勤監査等委員が参加する仕組みを整備しました。取締役会はその報告を受け、必要に応じて人財配置の見直し、現地確認、監査部による監査、内部統制の強化を行います。これにより、守りと攻めのガバナンスを両立させ、執行が株主の皆様の信認を得られる形で成果を上げているかを厳格にモニタリングする体制を構築しています。

カンパニー制とガバナンス強化を確実に機能させ、市場の変化に柔軟に対応しながら多様な収益源を育てることで、企業価値の持続的向上を実現する体制をつくり上げていきます。

長期経営ビジョン前半の総仕上げとして、後半の成長軌道を固める一年へ

長期経営ビジョンの前半5年間を締めくくる2026年度は、後半5年の成長軌道を決定づけるきわめて重要な一年になります。短期的には、限定出荷の影響で揺らいだ医療現場からの信頼回復を最優先とし、安定供給を確実に実現できる体制を維持・強化していきます。2026年度中に年間100万箱ペースの成長軌道へ戻すことは必須であり、この基盤づくりが後半戦の成長角度を左右します。

中期的には、2027年度から本格稼働する社内カンパニー制のもと、事業別の成長を着実に実現していきます。治療・未病・養生のそれぞれの領域における価値創造によるツムラが描く成長ストーリーを丁寧に発信し、資本市場の理解を深めながら企業価値の向上につなげていきます。

当社グループの本質的な競争力は「品質システム」にあります。高い製品品質を支える技術、人財、オペレーション体制は、国内外で事業を広げる上でゆるぎない基盤です。事業ポートフォリオの多柱化を進めていく中でも、グループ全体で品質を優先する価値観を共有し、企業風土として根付かせていくことで、グループとしての一体感と持続的な価値創造を実現していきます。

厳格な「ツムラ基準」に基づく高品質な医薬品をグローバル市場に供給し、さらに未病領域の新たな医療モデルが確立されれば、当社の社会的価値と経済価値は大きく高まると考えています。天然物由来の医薬品メーカーとして、ステークホルダーの皆様の信頼に応える経営を貫いていきます。

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