CEOメッセージ

天然物由来の製商品を手掛ける唯一無二の
企業グループとして、
事業モデルを革新しながら、
「一人ひとりの、生きるに、活きる。」
を実践します

代表取締役社長 CEO(最高経営責任者)

ツムラが目指す社会

一人ひとりに合ったエビデンスベースのヘルスケアサービスが提供される社会

ツムラグループは130年前の創業以来、植物や鉱物など天然物由来の生薬を原料とする医薬品などを提供している企業です。私たちの事業の目的は「患者様のお役に立つこと」であり、学会などで度々お聞きするのは、いくつかの医療機関を受診しても改善が見られなかった患者様が、最後に漢方治療にたどり着き、1 ~ 2年かけて完治したという症例です。それはまさに、私たちが提供している価値そのものであり、この事業を持続させていく理由でもあります。
医学の祖と呼ばれるヒポクラテスは、「人間の身体の中には“100人の名医”がいる」という言葉を残しています。“名医”とは、自然治癒力・免疫力のことです。そして今、COVID-19の世界的な流行を経て、人に本来備わっているこの力に、あらためて注目が集まっています。人がもつ“自然に治癒する力”を高めながら、心身の不調の原因を根本から治す漢方医学・中医学が、真に求められる時代になったのです。
また、2018年には世界保健機関(WHO)から勧告される「国際疾病分類(ICD)」が改訂され、伝統医学の章が新設されました。伝統医学の有効性・安全性を検証するための国際基盤ができた意義は非常に大きく、当社グループの研究活動や人財育成の追い風にもなると受け止めています。

急速に進展するデジタル技術も、ツムラグループの経営理念に合致した事業展開を後押しする手段であり、さまざまな活用方法を模索しています。特に主力の医療用漢方製剤事業では、デジタル化の進展によって健康に関する様々なデータの取得・分析がしやすくなり、患者様一人ひとりへの最適な処方の実現が視野に入ってきました。普段の暮らしで、個人が日々のバイタルデータなどを積極的に活用する時代になれば、医師もそれらのデータに基づいた治療が可能になります。加えて、「未病」の段階で、科学的なエビデンスを活用して治療を施せる可能性が高まります。さらに、未病の状態に陥らないよう、「養生」(予防)段階の管理などにも事業を拡大できます。

一方、中国事業への取り組みについては、従来からの生薬プラットフォームを拡大しながら、近年は中成薬を製造・販売する製剤プラットフォームの構築準備を進めてきました。漢方薬と中薬は発展経緯こそ異なりますが、天然物由来の原料や患者様への向き合い方などに共通点が多く、相乗効果が見込めます。中国関係会社の全従業員数は今や1,000名を超え、ビジネスの中核を担う人財も育っており、組織的な基盤がより強固になりました。

近年の経営環境を踏まえて、当社グループは他に類を見ない天然物由来の医薬品ビジネスの強みを生かし、高い付加価値を生み出すため、2022年に長期経営ビジョン「TSUMURA VISION “Cho-WA” 2031」を発表しました。

長期経営ビジョン

3つの「P」を実現しながら、「一人ひとりのWell-being」をサポートする

長期経営ビジョンに込めた“Cho-WA”(調和)とは、英訳の「ハーモニー(harmony)」とはニュアンスが異なります。真の意味は「調=ととのえる」と「和=なごみ・やすらぎ」の融合であり、心と身体、個人と社会が最高の状態にあることを表現したものです。さらに言えば、企業使命にも記した「漢方医学と西洋医学の融合」であり、事業と社会、および地球環境との調和でもあるのです。漢字ではなくアルファベットにした狙いは、海外で活躍する関連会社の従業員にもビジョンを理解してもらうためです。日本で育まれた「和」の意味合いや重要性を、創業者の志や価値観と併せて説明すると、「なるほど、我々が標榜すべき価値のあるビジョンだ」と納得してもらえました。

このビジョンの策定プロセスには、10年先の当社を牽引していく次世代の経営人財が参画しています。彼らは、2019年に開設した「ツムラアカデミー」が実施している経営人財の輩出を目的とした「経営基本講座」プログラムの受講生でもあります。10 ~ 20年後のツムラのありたい姿を、彼らが中心となって議論し、この長期的な未来像の土台を作り上げたのです。

長期経営ビジョンの大きな方針は、3つの「P」で表しています。1つ目の「PHC(下図参照)」では、ツムラの製商品・サービスを用いて貢献できる「well-being」の範囲を、治療と未病、および養生にまで広げて、一人ひとりの人生やライフステージ全体に価値を提供していく覚悟を示しました。患者様個々の体質や病態を心身両面から総合的に捉える漢方治療は、今後もより多くの患者様のお役に立ち、医薬品として価値を提供できると考えています。患者様がどの医療機関・診療科においても、一人ひとりに合った漢方治療を受けられる医療現場の実現に貢献している状態として、2024年度までに「10処方以上処方する医師の割合」を50%以上へ、2027年度からは、「診療領域基本処方すべてを、漢方医学に基づき処方する医師の割合」を50%以上にするという目標を定めました。達成に向け、DXソリューションによる情報提供活動を飛躍的に向上させていきます。

2つ目の「PDS(下図参照)」は、“未病”の科学化です。未病の領域は幅が広く、すべての病気に共通する未病の概念は存在しないため、アカデミアなど社外との連携・協働体制を組み、ターゲットを絞って推進しています。たとえば、認知症の前段階である軽度認知症(MCI)状態のケースなら、体内に起きている変化をエビデンスベースで定義した上で、その診断方法を確立し、漢方で治療する流れを作る取り組みに着手しています。加えて、個人が日常的にヘルスケアデータを活用する時代を見据え、バイオマーカー※1の確立など、治療に最適な薬剤を適確に選択できる指標を普及させ、個別化医療の実現をサポートしていきます。

3つ目に掲げた「PAD(左下図参照)」は、人財のポテンシャルを最大限に“開発”することです。2012-2021年までの長期経営ビジョンでは「“人”のツムラ」を掲げ、トップダウン型組織からボトムアップ型組織へ転換するために、時間をかけて従業員のマインドを変えてきました。真に会社に貢献した人を正当に評価する仕組みを盛り込んだ人事制度改革も、約8年がかりで完遂しました。そしてこれらの成果が、ようやく現われ始めています。

一連の組織転換をバックアップしてきた施策のひとつが、2019年からツムラアカデミーで開始したコーチングとチームビルディング※2です。実績豊富な外部講師陣にも協力いただき、「業務の目的は何か、価値がどこにあるのか」を求心力に据えた対話研修を、繰り返し実施してきました。対話文化という、価値創造のための土壌が整い、自主的・自律的に仕事ができる人財が増加しています。その結果、社員の潜在的なポテンシャルを引き出しながら、新たな長期経営ビジョンへ舵を切ることができたと認識しています。反面、積極性という面ではまだまだ課題があります。世界に手本のない漢方薬・中薬ビジネスにおいて、改革の手を緩めることなく、自らが新しい道を切り拓き、社会からも信頼される“漢方薬的組織”を作り上げていきます。

長期経営ビジョン(2022~2031)

TSUMURA VISION “Cho-WA” 2031

自然と共生するとともに、伝統医薬(漢方薬・中薬)を中心に自然と科学の力によって、一人ひとりのWell-beingをサポートできる
時代の到来を迎えるために、次の3つの“P”が実現されている状態を「TSUMURA VISION “Cho-WA” 2031」として掲げます。

  • PHC

    Personalized Health Care

    一人ひとりに合ったヘルスケア提案

    一人ひとりのライフステージ、症状、遺伝体質、生活環境等に合わせて、漢方薬・中薬をはじめとした製商品・サービスをエビデンスベースで提供することにより、人々のwell-beingに貢献している状態

  • PDS

    Pre-symptomatic Disease and Science

    “未病”の科学化

    エビデンスベースで定義された“未病”について、その診断方法と、各個人に合った未病改善システムを構築することにより、健康社会の実現に貢献している状態

  • PAD

    Potential-Abilities Development

    潜在能力開発

    “対話”によって個々の潜在能力を引き出す企業文化が醸成され、世界に手本のない漢方薬・中薬ビジネスを開拓し、誰からも信頼される“人”の集団となっている状態

  • ※1ある疾患の有無や、進行状態を示す目安となる生理学的指標のこと
  • ※2組織に属する個々人がスキルや能力・経験を最大限に発揮し、目標を達成できるチームを作り上げていくための環境づくりや取り組み

2022年度の振り返り

各種施策は順調に進捗するも、限定出荷を実施

2022年度の当社グループは、長期経営ビジョンの1stステージ(第1期中期経営計画)をスタートさせ、5つの戦略課題へのアプローチが順調に進捗しました。とりわけ、オンライン上の情報提供活動「eプロモーション」が、新しいコミュニケーション形態として医療関係者の間に定着してきました。

対話文化の醸成

一方、最も大きな問題は、製品の安定供給に支障をきたしたことです。2022年春に上海で実施されたロックダウンにより、上海工場が約70日間の稼働停止になりましたが、当社グループの事業継続計画(BCP)に基づき、国内工場での代替生産で一旦は乗り越えました。しかし、夏場の猛暑による季節性処方の急増やCOVID-19オミクロン株の流行によって、想定以上に漢方薬の需要増加があり、生産が追いつかなくなりました。そこで、代替処方がない製品の安定供給を優先するために、限定出荷の対応をとらざるを得ない状況になったのです。日々の薬が手に入らなくなった患者様には、多大なご迷惑をおかけしたことを改めてお詫び申し上げます。今回のような需要予測を超える事態への対応として、稼働準備を進めてきた天津工場での出荷時期の前倒しをはじめ、供給体制を一層強化していきます。

また、治療の領域では、漢方標準治療の拡大を目指す一方、新たな技術で漢方治療の個別化へ貢献すべく、優先する疾患領域ごとに、未病状態を科学的に特定・定義し、未病の診断方法を開発することで漢方による未病治療を目指します。2022年度は、最新の未病と漢方に関するさまざまなエビデンスが著名な学術誌「Gene」の特別号に公表されました。老化に関連する未病の新規バイオマーカー、漢方薬のレスポンダーマーカー、フレイルの新規評価スケール、複雑な漢方へアプローチするための方法論であるKAMPOmics※3などが掲載され、未病の科学化が進展しました。

  • ※3KAMPOmicsの詳細はP51「戦略課題2」をご参照ください

今後の展望

スピード感と先見性を有する組織体制を整備しながら、企業価値の向上に努める

先の読みづらいVUCA※4の時代に、当社グループが持続的に成長していくためには、スピード感と先見性が必須の要素になります。例えば、前述した上海ロックダウンや限定出荷の状況下で、私たちはさまざまな可能性を議論しましたが、結果としてBCPに即した対応ができた面と、想定を超える事態に直面し充分に対応できなかった面がありました。一連の事案によって再認識したのは、最も現場に近い人が適切に判断する重要性です。目まぐるしく変化する事業環境に適応するには、従業員一人ひとりが現場の状況を正しく把握した上で、先見性を持って変化を分析・判断し、自律的に周囲を巻き込んで迅速に行動できる体制が理想です。今後も一人ひとりが主体性を発揮するマネジメントに取り組んでいきます。

TSUMURA VISION “Cho-WA” 2031実現へのロードマップ

※ 自然の食材を“薬”として捉え、複数の食材をバランスよく組み合わせることで健康増進に役立てる、中国の食に対する思想

社会変化のスピードに対応できる組織体制・人財育成の整備、事業成長のための投資判断と並行して、企業価値のベースを作っていくことも、我々経営陣の責務です。財務的な価値とともに、組織資本・人的資本などのプレ財務価値、さらに長期経営ビジョンで示した3つの「P」で生み出していく将来価値をわかりやすく可視化して、IR活動に反映していく考えです。その上で、国内外で展開する事業の収益性を高め、株主の皆様へのさらなる還元を実現していきます。

当社グループは2022年春に、究極的に成し遂げる事業の志としてパーパス「一人ひとりの、生きるに、活きる。」を掲げました。130年前に創業者が目指したのは「社会公益の一端となる意義ある事業」でした。この創業精神を引き継ぎながら、デジタル革新が進展する今の時代において、「一人ひとりのwell-being」を実現したいという想いを、このパーパスに込めています。患者様のお役に立つ漢方薬を安定的にお届けするには、当社グループの力だけではなく、業界団体・事業パートナーとの連携が不可欠です。2023年4月の薬価改定において、当社製品のうち40品目が不採算品再算定※5の適用を受けています。引き続き国や業界団体と協力しながら、持続可能な漢方薬事業のあり方を、リーディングカンパニーとして確立していく考えです。現在、当社グループの主な市場は日本と中国ですが、天然物由来の医薬品などは、言うまでもなく世界各国・地域に暮らす人々の健康に大きな役割を果たす力があります。日本と中国に伝わる伝統薬を世界に発信し、一人ひとりのwell-beingに貢献する価値を創出することで、社会全体のwell-beingを実現していきます。

  • ※4Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をつなぎ合わせた言葉。ビジネスや社会において、変動性が高く将来の予測が立てにくい状態
  • ※5薬価改定時に、薬価が下がって製造販売の継続が困難になった医薬品の薬価を算定し直すルール

関連ページ

IR情報IR information