CEOメッセージ

パーパス「一人ひとりの、生きるに、活きる。」を起点に
安定供給体制を強化し、患者様の健康と
持続可能な社会のために、常に進化し続けます

代表取締役社長 CEO(最高経営責任者)

天然物由来、資源循環型の製薬事業で見据える、健康長寿社会の実現

中長期の課題認識と目指す社会

日本は人口の4人に1人が65歳以上という超高齢社会にあり、2030年代後半には3人に1人にまで高齢化率が高まると予想されています。そして平均寿命は男女平均で84.3歳と、世界第1位※1です。課題は、平均寿命と健康寿命の差が10年近くもあることです。ひと昔前と比べると、現代の65歳像は「高齢者」とはいえないほど大きく変化しており、社会の重要な担い手として活躍し、自分らしく生活できる期間をいかに伸ばしていけるかが重要となります。真の健康長寿社会が実現すれば、労働力不足や医療・介護の負担増加といった問題の軽減はもちろん、一人ひとりの健やかな暮らしを経済成長にもつなげていけるものと捉えています。

健康寿命の延伸を単なるスローガンで終わらせず、真に実現するために、私たちの手掛ける製商品・サービスが、その手段の一つになると考えています。なぜなら、複数の疾患が複合的に現われる高齢者の治療には、天然物由来の多成分系複合製剤である漢方薬が、真価を発揮すると確信しているからです。

将来世代にかかるもう一つの社会課題は、地球環境の危機です。漢方製剤の原料である生薬は、主に植物であり、豊かな自然環境のもとで生育します。ツムラグループは、自然界の生薬を主原料として製剤化する事業を行っているからこそ、自然環境の変化や危機に最も敏感であるべきと考えます。

私たちの事業が環境に与える負荷を最小化するために、これまで持続可能な生薬栽培や生薬残渣の再資源化などに取り組んできました。近年は並行して、再生可能エネルギー比率の段階的な引き上げや環境対応型の包装資材への切り替えを検討しているところです。資源の循環を図りながら生物多様性を維持できるように、持続可能な事業の構築を進めていきます。

  • ※1出所:世界保健機関(WHO)「World health statistics 2023」
  • 65歳以上の人口割合

    65歳以上の人口割合
  • 平均寿命と健康寿命の差

    平均寿命と健康寿命の差
  • ※2日常生活に制限のない期間の平均
    出所:「令和4年版厚生労働白書-社会保障を支える人材の確保-」図表2-1-1をもとに当社にてグラフを作成

コアコンピタンスを活かした成長の方向性

「一燈照隅 万燈照国」という言葉があります。これは、当社グループと社会の持続的な発展を目指す上で、私が大事にしている考え方です。より良い社会の形成には、それぞれが最も得意とする領域において、世の中を照らす存在になることが重要です。当社グループも、長年の事業で蓄積してきた、他社にはないコアコンピタンスを土台に据えて、事業を展開していく必要があります。私たちのコアコンピタンスは、天然物から高い品質の医薬品を作る技術やノウハウです。これを競争力の中核に据えて、安全性・有効性・均質性を担保した漢方薬を患者様に提供しています。

原料である生薬には、人類が未だ特定できていない成分も多数含まれています。私たちは130年以上にわたって、天然物である生薬の未知なる可能性を追い求め、研究を重ねてきました。そのため、この分野に関する一日の長があるものと捉えています。また、私たちのコアコンピタンスに、証※3の科学化や漢方の自動問診といった最新のデジタル技術を適用することで、「誰一人取り残さない」漢方治療の実現を目指しています。西洋薬の治療でなかなか効果が得られない患者様にとって、私たちが果たすべき役割と責任は、非常に大きいと自覚しています。だからこそ、私たちは常に進化し続ける企業でありたいと考えています。

また、当社グループのコアコンピタンスを食品などの分野に応用することで、高いレベルのモノづくりが可能になります。そこで、医療用漢方製剤事業に次ぐ新たな成長の柱をつくり、多角化ではなく「多柱化」することを構想しています。

  • ※3 その人の状態(体質・体力・抵抗力・症状の現れ方などの個人差)を表すもの

5つの骨太方針で策定した長期経営ビジョンの実現に向けて、果敢に実行

バックキャスティング経営を実践

2031年度を最終年度とするツムラの長期経営ビジョンは、2020年後半から取締役会で議論を進めてきた「経営の骨太方針」をベースに策定したものです。その内訳は「健康とサステナブルな社会への貢献」、「海外売上高比率50%以上」、「ヘルスケア領域事業比率50%以上」、「労働生産性2倍以上」、「グローバル経営人財と社内起業家の養成」の5項目です。これらの方針は、2031年にありたい姿からバックキャストした経営を実践していく土台となるものです。

今後の経営環境を展望すると、特に影響が大きいのは生産年齢人口の減少であり、人財の確保はますます難しくなると予想しています。「労働生産性2倍以上」を骨太方針に加えた背景には、この危機意識があるのです。そこで、少ない労働量でも成果を生み出せる企業体質への転換を図るため、デジタル・ロボット技術を用いた自働化投資などを着実に進めています。

直近の課題は、中国での中成薬事業参入への基盤づくりです。取締役会でも多くの時間を割いて議論を進めており、正しい意思決定ができていると捉えています。

また、ペイ・フォー・パーパスの基本思想のもと、2022年度に役員報酬制度を改定しています。具体的には、企業価値と役員報酬をより明確に連動させるため、長期インセンティブを導入しました。「企業価値」評価に相対TSR(TOPIX成長率比較)を、「サステナビリティ」評価にはGHG排出量削減と野生生薬の栽培化を、「事業価値」評価には海外売上高比率50%以上を組み入れました。企業価値の向上を意識づけることで、改革を具現化・加速させていく狙いがあります。

資本政策の基本方針と、株主還元方針の刷新

長期経営ビジョンを策定する過程で、新たな社内経営管理指標としてROICの導入を検討し始めました。なぜなら、このビジョンを実現するにはB/Sマネジメントが不可欠であり、次なる経営ステージへの進化を加速させたいという思いがあったからです。

ROICは2022年度から本格的に導入し、売上債権回転率や在庫の適正化に向けた施策を進めています。また、2023年6月に社外取締役に柳氏が就任して以降、資本政策検討会にも参加していただき、事業特性を踏まえた財務理論をもとに、資本政策の検討を加速させました。

2023年11月には、新たな資本政策の基本方針と、株主還元方針の改定を発表し、2024年度は大幅な増配を予想しています。事業の成長投資を通じた企業価値の向上とともに、中長期の利益水準やキャッシュ・フロー、B/Sマネジメント等を勘案し、方針に基づいた株主還元を実施していきます。

〈2024年度 取締役会重点5テーマ〉

  1. 第1期中期経営計画の達成状況の確認、第2期中期経営計画の策定の監督・指導
  2. 中国事業の進捗状況確認(ガバナンス体制整備含む)
  3. パーパス・理念に則ったサステナビリティ経営の実践~人財育成・環境社会への取り組み~
  4. 戦略投資案件の進捗状況確認~環境・設備・R&Dへの投資、M&A、DXを含めたシステム投資~
  5. 企業価値を高める資本政策のさらなる推進

長期経営ビジョンの実現に焦点を定め、着実に戦略を推進

持続的な安定供給に向けた体制強化

ツムラグループは、東日本大震災での被災経験を踏まえて、工場の免震・耐震対応のみならず在庫の持ち方を見直すなど、事業継続計画(BCP)を更新・強化してきました。それにもかかわらず、2022年夏に到来した新型コロナウイルス感染症の第7波および他社の医療用医薬品の供給不足により、漢方薬の需要が急増した結果、限定出荷を実施せざるを得ない状況となりました。患者様と医療関係者の皆様に多大なご迷惑をおかけした反省に基づき、需要予測の精度を高めながら、供給体制を格段に強化することが、今の私たちに課せられた命題です。

非常時を想定した生産余力と在庫を常に確保することは、投資家の皆様から見れば、平時には効率が悪いと思われるかもしれません。しかしながら、当社としては過去の緊急事態を教訓に、国内に一定の在庫を確保しておく必要性は高いと考えます。生薬倉庫などの設備投資も計画中ですが前倒しできるものから段階的に実行していきます。原料生薬の栽培には多くの生産者さんが関わっており、植物の根や実などを生薬に加工するには膨大な時間と手間が必要です。当社では、こうした現実を医療関係者、アカデミア、関係官庁などへ発信し、理解醸成に努めてきました。中間流通を担う医薬品代理店や、医療機関に対しても、漢方薬の成り立ちからその価値をご理解いただく活動を10年以上続けてきました。

このような状況下、2024年薬価改定では、急激な原材料費の高騰や医薬品の安定供給問題に対応するべく、1,943品目にあたる医薬品が特例的な適用を受け、当社医療用漢方製剤では66品目が不採算品再算定の適用を受けました。医療上必要性の高い、高品質で安心・安全な医療用漢方製剤の安定供給に向け、さらなる体制強化を図っていきます。

理念経営を推進し、VUCA時代を生き抜く

2024年度は、第1期中期経営計画の最終年度にあたり、計数目標は達成する見込みです。しかし、焦点はあくまで長期経営ビジョンの実現に合わせています。現時点では、中国における中成薬事業への参入と、生産部門の生産性2倍に向けた取り組みがやや遅延しており、2024年度の最注力事項と位置づけています。

バックキャスティング経営を実践している当社グループにとって、その先頭はパーパスです。当社グループのパーパスは、一般的に訳される「存在意義」とは異なり、先の未来にある、現時点では患者様やお客様も気づかれていない価値であり、究極的に成し遂げる事業の志として位置づけています。このパーパスは従業員にとっても、患者様や社会に起こる好ましい変化のために、自分たちに何ができるのかを想像しながら、これまでとは違う次元で自身の仕事と向き合う良いきっかけになっています。130年前に創業者が「中将湯」で志したことともつながるため、スムーズに社内へ浸透していると感じています。

同じく2022年に、サステナビリティビジョンを「TSUMURAGROUP DNA Pyramid」に組み入れたことも、大きな意味があります。気候変動対策と企業活動は、短期的にはトレードオフの関係にありますが、両立できるポイントを探りながら、社会公益の一端となる事業として、成長を志向していきます。

先の見通しにくいVUCA※4の時代では、企業という船は“羅針盤”がなければ難破します。当社グループのDNA Pyramidは、いわば羅針盤のような役割を果たしているといえます。そして私自身も、持続的な企業価値の向上を強く意識しながら、CEOとしての責務を果たしていきます。

  • ※4 Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をつなぎ合わせた言葉

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