社外取締役メッセージ
重点テーマの進捗状況と、見えてきた課題
第1期中期経営計画の2年目を振り返って、取締役会の重点テーマの進捗をどのように評価していますか。
岡田
今後、中国事業での提携先とは、互いの強みを活かして補完し合う「コンビネーション」がポイントになると考えます。また、M&A成立までの過程では、機動的な意思決定が重要です。当社の場合、取締役会の開催前に担当役員や部門長から直接説明を受ける「社外取締役会議」という場が設けられ、案件情報はタイムリーに共有されます。こうしたサポートをいただきながら、議論や決議の質・スピードを高める努力を重ねています。
持続的な成長に向けた道筋と課題を明確化した長期経営ビジョンは、かなり良く練られたものです。ビジョン実現までの道のりを3つのステージに分けて計画されており、最初の3か年である第1期中期経営計画は、2031年を見据えた基盤づくりが主眼です。そのため大型の設備投資や中国事業の拡大を図ってきたわけですが、いくつかのテーマと施策は、三宅さんもご指摘のとおり進捗に停滞が見られ、第2ステージにずれ込まざるを得ない状況です。

三宅
取締役会の重点テーマの中で大きく進展したものは、資本政策の見直しでしょう。不確実な時代を生き抜く会社のB/Sマネジメントとは何か、効率性と安全性のバランスなどの議論が、この1年で深まりました。
岡田
柳さんがボードメンバーに加わって資本政策の見直しが加速し、売掛金の回収サイト短縮や政策保有株式の縮減など、具体的なB/S改善策も進行していますね。
三宅
「経営人財の養成」も、順調に進んでいるといえます。人事制度も改定され、「T-Next」という将来の経営人財輩出のための仕組みもさらに進化しました。ただし、ヘルスケアなどの新しい事業領域に対応できる人財にはまだ物足りなさがあり、課題だと認識しています。
サステナブルな成長のために、大切な観点と今後の展望
持続的な成長に向けて、今後注視していきたいポイントを教えてください。
岡田
ツムラは、長きにわたり漢方製剤のエビデンスを確立してきた企業であり、国内市場で8割以上という圧倒的なシェアからもわかるように、替えのきかない存在です。だからこそ、一人ひとりの患者様のことを最重点に据えた事業をすべきであり、その積み重ねがパーパスにつながると考えます。特に大切なポイントは、製品の品質と安全性の確保でしょう。私は品質管理に厳格なメーカーにいた経験から、この点をずっと注視していますが、高い水準で取り組めていると評価しています。
三宅
私は商社の経験が長く、投資案件から得られるリターンをリスクに応じて、計画に修正を施すことが当たり前の業態にいました。当社においても、費用対効果の観点から常に厳正な態度で監督・助言を心掛けています。
特に、投資が決定した案件に関して、資材コスト高騰の影響度合いや計画時の工程とのずれなどについて、随時確認をお願いしています。もっともツムラの場合、患者様や医療機関への供給責任を果たすために、商社のものさしとはやや異なる戦略・時間軸に基づいた投資がなされており、事業継続計画(BCP)の観点から一定の生薬在庫を持つ必要性もあると考えています。

岡田
特に、当社の事業は投資から回収までの期間が長いので、投資するタイミングの見極めが、重要なポイントになるでしょう。唯一無二の漢方製薬企業ゆえに、社会の公器としての経営判断を意識していかねばなりません。もう一つの重要な観点は、業界を牽引する企業の責務として、医療関係者のニーズに沿った的確な漢方ソリューションを提供できる人財の養成です。一方、法務やITといった経営サポート部門の専門人財は、外部からの積極登用などを、我々からも後押ししていきたいですね。
三宅
私たちの企業活動の先に、未来のステークホルダーがいることを忘れてはなりません。この視点を役員報酬にも反映させるために、2022年度からサステナビリティビジョンの実現度など、長期インセンティブを織り込んだ報酬体系に刷新しています。私は、既存事業のさらなる強化と新規事業の創造という両輪を回すことが、ツムラグループの持続的な発展につながっていくと考えています。たとえすぐに芽が出なくとも、新しい領域を切り拓こうとする従業員を、鼓舞するような存在でありたいと思います。
三宅
取締役会の5つの重点テーマのうち最も時間をかけて議論してきたのは中国事業です。中成薬メーカーのM&Aは、候補企業と交渉をしている段階であり、2024年度中の実現を目指しています。並行して販路についても、現地に販売チャネルを持つ企業との協業を前提に、精査を進めています。
また、環境課題への対応は進捗がやや停滞しており、より丁寧な監督・モニタリングが必要だと感じています。環境目標に掲げるテーマは、どれもスピード感を持って対応することが難しいものばかりですが、中長期的な経済・社会構造の変化を乗り越えるために、実効性のともなった活動をしっかり後押ししていきます。