社外取締役座談会
ツムラのガバナンスを形づくる考え方
岡田 正
社外取締役
ツムラの特徴は、まず医療用漢方市場で8割超のシェアを持ち、医療保険制度のもとで社会的責任の大きい事業を担っている点にあります。このため、製商品の安定供給や品質の確保、エビデンス構築を継続していく必要があり、取締役会もその点を確認しています。また、現在の経営陣には、漢方医学の普及・発展に貢献するという使命感があり、それが価値創造につながっていると感じます。さらに、長期経営ビジョンのもとで、中期経営計画を着実に進めており、取締役会では計画の妥当性と投資の優先順位、主要なKPIに基づく実行状況のモニタリングなどを行っています。
江口 真理子
社外取締役
岡田さんのご認識と同様、ツムラは公益性を伴う事業を手がけてきた企業ですから、当社には、長い歴史の中で築いてきたステークホルダーとの信頼関係という無形資産があります。日本国内はもちろん中国との関係も深く、提携先企業との良好な関係を活かして、積極的に事業機会を創出していく姿勢も不可欠だと考えます。その上で経営陣が中長期の戦略に沿ったぶれのない判断を行っているかを確認しています。変化のスピードが速くなっている外部環境や市場の変動に対応しつつ、経営が短期思考に傾いていないか、社外取締役として常に気を配っています。
望月 明美
社外取締役(監査等委員)
将来を見据えると、日本では2040年代前半に高齢者人口がピークを迎えます。つまり人口動態の面から、国内市場は大きな成長が期待しにくく、今後の展開を考える上では海外、とくに中国市場が鍵になります。ただ、中国は環境変化のスピードが非常に速いですから、江口さんのお話のとおり、長期的な視点での分析・戦略立案、そして市場への丁寧なアプローチが欠かせないでしょう。また、気候変動の問題が年を追うごとに深刻化する中で、原料生薬の安定的な調達も、今後の事業運営を構想する上で、しっかり向き合うべきテーマです。
土屋 智恵子
社外取締役(監査等委員)
確かに、原料生薬が自然物である以上、漢方製剤の品質や供給の安定性には他の製薬メーカーにはない難しさがあります。だからこそ、生薬の調達に関するガバナンスの土台を確認し、監督機能を果たしていくことが重要だと考えています。一方で、ツムラは「どの畑で、いつ採れたものが、どの製品に使われているか」まで把握できるトレーサビリティ体制を整えており、これは大きな強みです。さらに、将来的な供給リスクや生物多様性の観点から栽培化研究を進めるなど、自然由来の不確実性に向き合う取り組みも着実に進んでいます。社外取締役としては、こうした施策が適切に機能しているのか、また潜在的なリスクにどう向き合うかを、経営陣に問いかけていくことが重要だと考えています。
2025年度取締役会の主な論点
岡田 正
社外取締役
2025年度の取締役会は、長期経営ビジョンを実現するための基盤づくりが大きなテーマでした。まず漢方製剤を将来にわたって安定的に供給するための生産能力を増強すべく、群馬県の新工場計画を含む長期的な設備投資を議論しました。また、資本業務提携についても綿密に議論しました。中でも2025年6月に決議した虹橋飲片の持分取得は、検討や交渉過程に時間を要したものの、大きな前進だったと評価しています。
望月 明美
社外取締役(監査等委員)
中国企業との提携については、過去にも候補に挙がった案件があったものの、結果として実現に至らなかった経緯を見てきました。だからこそ今回、虹橋飲片との提携が実現した時には、私自身も大きな安堵を覚えました。とくに、中国でのさらなる業容拡大を見据えますと、現地メンバーの力を生かしながら交渉を円滑に進められたことに、大きな意義があると思っています。
土屋 智恵子
社外取締役(監査等委員)
2025年度は、養命酒製造の株式取得についても深く議論しています。社外取締役として、株主価値の観点からメリットやリスクなどを一つひとつ検証し、執行側との質疑を重ねながら、ツムラにとってより適切な内容になるよう慎重に検討しました。社外取締役間でもそれぞれの視点から何度も意見を交わし、十分議論を尽くせた点は、非常に意義があったと感じています。
江口 真理子
社外取締役
養命酒の事業については、多面的な角度から検証を行ってきました。ヘルスケア事業全体の成長戦略の中でどのような役割を果たすのか、資源配分の優先順位や資本効率の観点から適切な投資なのかといった戦略面に加えて、上場会社同士の取引であることを踏まえた情報管理や適時開示などプロセス面のリスクにも注意を払っていました。複数の関係者、変数も多い交渉の過程では、ツムラ自身の戦略や企業価値、株主価値向上の観点から妥当であるかという判断を心がけていました。
カンパニー制が求める組織力発揮
望月 明美
社外取締役(監査等委員)
2026年度からは、社内カンパニー制を導入しました。医療用漢方事業とヘルスケア事業のように、ビジネスの前提が大きく異なる事業を、それぞれの判断で動かせる体制にした意義は大きく、従来よりも意思決定のスピードが高まることを期待しています。今後、その実効性を見極めつつ、グループガバナンスや監査のあり方も検討していきます。ヘルスケア事業については、医療用漢方事業にはない自由度と裁量を持って事業を進められる領域です。その特性を生かすことで、既存の枠組みを超えた発想や挑戦が生まれやすくなり、事業拡大に向けた突破力を発揮する契機になると考えています。
土屋 智恵子
社外取締役(監査等委員)
今回のカンパニー制は、中国事業のガバナンスを強化する上でも非常に重要だと捉えています。中国の文化や商習慣に通じたプレジデントが現地で素早く判断できる体制となり、責任の所在もより明確になりました。
一方で、グループ会社の資本構成が複雑な領域でも統制が実効的に機能しているかどうかは、監査等委員会として継続的に確認していく必要があると考えています。
江口 真理子
社外取締役
カンパニー制という仕組みが、全社の成長戦略と整合しながら機能し、事業ごとの成長と収益力の向上につながっているかを、取締役会としてしっかり監督していくことが重要だと考えています。その際に欠かせないのは、各事業の自律性が高まる中で、ツムラが育んできた文化や理念をグループ共通のものとしていかに継承していくかという視点です。私自身、複数の事業が異なる国や文化圏をまたぐ企業で、ガバナンスや企業文化の統合に携わってきましたが、グループとして一体感のある企業文化を育むことは十分可能だと感じています。こうした経験を踏まえ、取締役会での議論にも貢献していきたいと思います。
岡田 正
社外取締役
カンパニー制の導入にあたっては、さまざまな論点がありましたが、最終的には、執行側が主体的に動き、リスクを取って成長に向かう体制づくりに資するという判断をしました。同時に、権限委譲の整理や取締役会で扱うテーマの明確化など、意思決定プロセス全体を見直すことで、運営のスピードを高めることも意識しました。カンパニー制は組織にとって前向きな一歩になったと感じています。
ただ、PBRが1倍を下回る状況は、投資家の期待にまだ十分応えられていないことを示しています。利益成長やROEといった収益性指標は、これまで以上に厳しくみられています。長期経営ビジョンの第3期中計に向けて、事業ごとの数値計画をつくり、確実に実行していくことが求められます。
当社グループには、未病や睡眠障害など、医療用漢方として成長余地の大きい分野が多くあります。加えて、中国事業やヘルスケア事業を新たな柱として育てていく。こうした領域が将来の成長機会としてどのような価値を生み出していくのかを、投資家の皆様に分かりやすく示していくことが、企業価値向上の王道だと考えています。