小満 次候
紅花栄う(べにばなさかう)
5月26日〜5月30日頃

紅花はかつて布を真紅に染められる貴重な天然染料であり、口紅の原料でもありました。七十二候では5月末に登場しますが、実際の開花は6月末頃になります。
紅花の咲き始めは黄色ですが、次第にオレンジ、そして赤に変わります。収穫するのは7、8分咲きの頃。紅花に含まれる色素の多くは黄色で、赤の色素はわずか1%。このわずか1%を抽出するために花を何度も揉みだしたり、陰干ししたり、発酵させたりとさまざまな工程があり、媒染(ばいせん)には未熟な梅の実を燻製にした烏梅(うばい)を必要としました。
真紅に染められた薄い平絹のことを「紅絹(もみ)」といいます。紅絹は女性の着物の裏地や、赤ちゃんの産着にもよく用いられていました。紅には魔を払う魔除けの効果があると考えられていたためです。これは決して迷信ともいえず、近年は紅花のさまざまな効能が見直され、血行促進や抗菌作用、冷え症や婦人科の不調を改善することが証明されています。
江戸時代、紅花を発酵させて丸い餅状に固めた紅餅は、金の十倍ともいわれるほど高値で取り引きされ、莫大な富をもたらしました。紅餅は日本の発酵文化の結晶ともいえるものでした。紅花には鋭い棘があり、花びらを素手で摘むのは大変な作業です。そのため花摘みは棘がやわらかくなる早朝に行われたそうです。
和暦では皐月に入る頃で、紅色のサツキが咲いています。サツキは皐月躑躅(さつきつつじ)の略で、ちょうど皐月の頃に咲くツツジです。