寒露 末候
蟋蟀在戸(きりぎりすとにあり)
10月19日〜10月23日頃
暑さが完全に去り、ひんやりとした肌寒さを感じ始めた頃、金木犀が甘い香りを漂わせます。急速に寒さが増していく中で、虫の音は次第に弱々しくなっていきます。
きりぎりす夜寒に秋のなるままに 弱るか声の遠ざかりゆく 西行
七十二候では蟋蟀をキリギリスと読ませていますが、昔はコオロギのことをキリギリスと呼んでいたので、この蟋蟀はコオロギや鳴く虫の総称です。
「蟋蟀在戸」は紀元前に成立して以来、変わっていない七十二候のひとつです。その出典とされる詩が中国最古の詩集『詩経』(紀元前12〜6世紀)に収められています。
「七月は野に在り、 八月は軒下に在り、 九月は戸口に在り、十月の蟋蟀は我が床の中に入り込む」
コオロギは冷え込みが増すとあたたかい場所を探して家の中にも入りこむ習性があります。中国の杜甫(とほ)や白居易(はくきょい)は弱って家の戸口や寝床にやってくるコオロギのことを漢詩に詠み、日本の中世の歌人たちもこぞって弱りゆく虫たちを思いやる歌を詠んできました。
きりぎりす夜寒になるを告げがほに 枕の元にきつつ鳴くなり 西行
虫の音は盛んに鳴いているときではなく、弱っていくときにこそ、しみじみと胸に迫ってきます。「蟋蟀戸在」は紀元前から連綿と受け継がれてきた「生きものへの愛の歌」ともいえる一候です。

