秋分 次候

蟄虫坏戸(むしかくれてとをふさぐ)

9月28日〜10月2日頃

大地の気が冷え込みはじめる頃、虫たちは土に潜り、戸口をふさぎます。
古代中国の『礼記』には「虫、戸を坏(つき)す」とあり、生命が自らを守り、次の季節へ備える知恵が示されています。

「穴まどひ」は秋分をすぎても、穴に入らない蛇のこと。
寒さの中、のそのそと這う姿を見て、寝床を探しているのだろうかと案じる、あたたかいまなざしが込められた季語です。
蛇はちょうど稲刈りが終わった頃、山へ帰ることから、田の神が山にお帰りになる化身ともされてきました。

七十二侯の春と秋に登場する「蟄虫(ちっちゅう)」 は、本来ヘビをはじめとする両生類や爬虫類をさしていました。
「虫」という字は蛇を象った象形文字であり、当時はそれが「虫」の意味だったのです。
のちに蛙(かえる)、蜥蜴(とかげ)など獣でも鳥でもない生きものへと広がり、小さな昆虫は「蟲」と書き分けられていました。

昆虫たちもまた冬越しをしますが、成虫のまま越冬できる虫はごくわずかです。
盛んに鳴いていたコオロギは、やがてゆっくりと命を終え、次の世代は地中の卵で冬を越します。
モンシロチョウやアゲハは蛹(さなぎ)で、冬に見かけるミノムシは夏までに成長したミノガの幼虫が袋に籠もって越冬する姿です。

虫たちが越冬する場所は土中だけでなく、樹皮の隙間や落ち葉の下などさまざまです。
人もまたあたたかい衣に身を包み、寝具を替え、寒さを防ぐ工夫をする季節。小さき命の知恵に学びながら、冬支度をととのえます。

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