啓蟄 初候

蟄虫戸を啓く(すごもりのむしとをひらく)

3月5日〜3月9日頃

冬籠りした生き物たちが活動を始める頃。

啓蟄(けいちつ)の蟻がはや引く地虫かな 虚子

「蟻穴を出づ」は春の季語。いきいきと歩き回るアリの姿が見られるようになります。虫だけでなくヘビやカエルも地中の穴を出て、動き出します。本来、虫という文字はヘビを始めとする両生類や、爬虫類をさしていました。マムシの語源は「真虫」です。

そのため「地虫穴を出づ」という場合にはヘビやトカゲ、カエルなども含まれます。大地にはあちこちに穴が空き、無事に冬を越した痕跡が見られ、体温を上げるためにひなたぼっこをするトカゲにも出会える頃です。

一方、甲虫などの小さな虫には蟲(ちゅう)という字が使われていました。蠢(うごめ)くという字は「春」の下に虫が二つ。目にみえない地中の小さな蟲たちがもぞもぞと動き回っている様子で、まさに啓蟄を表すかのような言葉です。

「蠢動含霊(しゅんどうがんれい)」は霊性を持つ草木や動物、人間を含んだ生きとしいけるすべてを指します。私たちの心もむずむずと反応し、共にひとつとなって命の喜びを感じられる。啓蟄はそんな季節です。

シジュウカラは高らかにさえずり、ミツバチの羽音も聞こえてきます。啓蟄の期間は小さな虫だけでなくいきもの全体や、そのつながりに目を向けてみてください。

~生きる、72の季節~/蟄虫戸を啓く

関連する七十二候