処暑 初候
綿柎開く(わたのはなしべひらく)
8月23日〜8月27日頃

「名月の花かと見えて棉畠(わたばたけ)」 芭蕉
芭蕉が八月十五日の月見の宴で詠んだ句です。煌々と明るい月の光を浴びて花のようにみえるのは綿の白い朔果(さくか)であった、と詠っています。闇の中に浮かぶ白いコットンボールが一面に広がっている棉畠の情景が目に浮かびます。
国産の木綿を「和綿」といいますが、和綿は繊維が短く、太く、丈夫で、独特の厚みと弾力があったといいます。かつては全国で栽培され、明治までは100%の自給率でしたが、現在は1パーセント以下。百種以上あった綿の在来種もほとんどが絶え、現在は数十種類が保護され、わずかながら栽培されています。
「綿柎開(わたのはなしべひらく)」の「柎」は萼(がく)のことで棉の実を包んでいる萼が開き、蒴果になるという意味ですが、綿の花が咲く時期は7〜9月ですので、今はまだ花が咲いているところが多いかもしれません。クリーム色のふんわりした花はトロロアオイやオクラの花によく似ています。
『歳時記』には綿に関する季語が多く存在します。「草棉(わた)」は朔果、コットンボールのことです。「棉」の字は植物の状態から摘み取ったところまでに使われ、繊維になってからは「綿」の字を使います。「棉吹く」「棉摘み」「棉取り」「新綿」「今年綿」など、いずれも収穫期を迎える10月頃の季語になっています。